第55話 神楽坂小夜は教えたい
「廊下側の窓に貼り付ける飾りつけ、さっき作ってここに置いておいたんだけど、誰か知らないー?」
「メニューはこれでいいと思う……。あとは価格をどう設定するかだよね……」
「見てくれよ、折り紙で剣できたぜ~。二刀流~」
10月の下旬。1年2組の教室では、というかどこの教室もそうだが、文化祭の準備でてんてこ舞いだった。
最後おかしな奴がいたが無視の方向でいこう。てか風見だったわ。恥ずかしいから俺に話しかけるなよ。
2組ではコスプレ喫茶をやることに決まったので、そのための外装、内装の飾りつけや提供するメニューの考案、調達。そしてコスプレのための衣装づくり等が主に行われていた。
俺は特技があるわけでもないので、おとなしく隅で飾りつけのために折り紙を丸く折っている。
言われた仕事を文句ひとつ言わずに黙って淡々とこなしていく俺。社畜のセンスあるのでは?
そんなしょうもないことを考える余裕すら生まれている、学校の歯車こと、俺の近くでチクチクチクチク針作業をして衣装を作っている神楽坂が呆れたような眼差しを向けてきた。
「あなた、今くだらないこと考えていたでしょう?」
「どうしてそう思うんだ?」
「教室の隅で黙々とひたすら紙だけ折っている人はくだらないこと考えていそうだなあと思っただけですよ」
「ただの悪口だった」
「ジョークですよ。私も集中を要する作業はできるだけ一人でしたいですし」
「へぇーそう。てか神楽坂って裁縫もできるんだな」
「まあ人並み程度には……」
「普通の学生なら1着縫えれば御の字ってところをあんたはすでに3着目に到達してるじゃねえか。人のを手伝うのは良いことだが、無理するなよ」
「またそれですか……。あなたは結構過保護ですよね。私より自分の心配をした方がいいのでは?作業スピードが遅いですよ」
「俺、手先が不器用なんだよ。なんせ折り紙で鶴を折れないくらいにな」
「そんなことを自慢げに言われても困ります……。あ、そこはそうじゃなくてこう折った方がいいですよ」
神楽坂は自分の縫う作業の手を止め、俺が折るのに苦戦していた折り紙を取ろうとしたのだが。
その際、不覚にも俺と神楽坂の指が少し触れてしまった。
「「ッッッ!?!?」」
磁石の反発みたいに互いに手を離した俺たちは、さらに偶然にも目が合ってしまった。
その後、すかさず同時にプイッと視線を逸らした。
折られなかった折り紙だけが机からひらりひらりと落ちていった。
「さ、触らないでくださいよ……」
「今のは神楽坂から触ってきただろ」
「違います。あなたが――」
神楽坂が言い終わる前に、クラスメートの一人が彼女に話しかけてきた。
「神楽坂さん、衣装づくり順調そう?」
「え、ええ。今のところは問題ありませんよ」
そのクラスメートが話しかけてきたとき、俺は神楽坂とは何も話していなかったふうを装っていた。
理由はなんとなくだ。気づいたらと換言しても差支えはない。
神楽坂と二人で喋っていたのをバレたくないと思ってしまったのかもしれない。神楽坂が異性だから?ってそんなんでこっ恥ずかしさ感じてるなんてバカか、俺は!
仮に俺なんかが彼女に好意を抱いても望みねえだろ。ったく、落ち着け俺。
頭の中で一人慌てる俺の横で、神楽坂はそのクラスメートとの会話を終えてから、無言で俺に何かを要求するように手を差し出してきた。
「貸してください」
「え?」
「折り紙……上手い折り方教えてあげるので1枚くださいって言ってるんです」
「あ、意図はわかってたんだが、その……悪いな。忙しいのに」
「いえ。私がやりたくてやるだけですので、気にしないでください」
それから俺と神楽坂は数分間だけだが邪魔が入ることなく二人で飾り付けを作っていた。
だが、このときはまだ知る由もなかった。
文化祭の3日前にして、神楽坂が他の生徒から不信を買ってしまう事件が起きることを……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
神楽坂「少し興が乗ってしまい、飾り付け以外にもたくさん作ってしまいました」
梓「おにぎり、ホットケーキ、お寿司って食べ物ばっかだな」
神楽坂「なっ!?悪いですか?」
梓「いいや、別に……」
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