第23話 梓伊月は格付けされる

 7月某日。


 2年1組の教室では期末テストの全ての返却が終了していた。


「よっしゃー、おれ80点ー!」


「はあー!?今回むずくなかったか?」


「どうしよー私前より点数落ちちゃったー。Cランクに下がっちゃうかもー」


「大丈夫だってあんたは。コミュ力高いじゃん」


 テスト返却というのは学生ならわかると思うが、色んな意味で盛り上がるイベントとも言える。


 点数が上がった者、下がった者。気にせず、友人と盛り上がることを優先する者。


 どこの学校にも共通することだと思うが、俺たちのクラス、というか学校では、ただ一喜一憂するだけでは済まされないがある。


「それではみんな分かっていると思うが、今からを始める」


 教卓の前に出て、一人の生徒が言い放った。


「お願いします、Bランク維持できますように……」


「落ちたくないー落ちたくないよー」


 何をそんなに祈っているのか。


 理由は、このテストの結果次第でカーストのランクに大きく響くからである。


 ランクは主にコミュ力とテストの点数、あとは日ごろの生活態度で決められるのだが。


 これらをチェックするのは、各クラスに一人いる、生徒会長の部下とでも言おうか。そういう調査係みたいな人間(以後監視人と呼ぶ)がいて、さっき教卓で言い放った人物がそれに当たる。


 テストなら点数みたいにちゃんとした形が残るからともかく。


 コミュ力とか生活態度は完全に監視人の主観で決められるので、理不尽極まりない。


「じゃあ教卓の前に出席番号の後ろから順番に並んでもらおうか」


 監視人がそう言うと、クラスメイトはズラズラと並び始めた。


「平均75点か……他の要素を考慮すると……現状維持のBランクだ」


「おぉ……落ちなくて良かったぁ」


「次の生徒は前に出てくれ」


 俺は『梓』なので一番後ろに並んでいる。


 次々と査定が終わっていき、生徒が着席していく。


「風見はBランクだ。数学の点数がもう少しあればAランクに届いていたかもしれないな」


「マジかー。もっとやっとくべきだったかぁー」


 風見はあちゃーと言いながらすでに査定が終わったAランクの生徒に絡みに行く。


「ったくー。どうやったらお前らみたいに良い点取れるんだよー。あれかっ?カンニングか?」


「あー実はなー。ってなわけあるかっ!俺とお前とではここの出来が違うんだよ」


 Aランクのそいつは自分の頭をトントンと指しておどけた。


「このやろ、言ってくれるなー」


 風見も冗談とわかっているので、陽キャっぽくじゃれていた。


「じゃあ、次は……神楽坂さんですか……」


「はい。お願いします……」


 黙々と目を通していく監視人。


「さ、さすが神楽坂さん。平均94点とは……これは文句なしのSランクですね。敬服いたします」


「そんな、大げさですよ。私は努力することしか取り柄がないもので……」


「またまた。やはり凡人とは才能が違うんですよ」


 その会話を聞いた他のクラスメイトも口々に神楽坂をもてはやす。


「さすが神楽坂さん。きっと私たちとは人としての出来が違うのですわ」


「高得点にもかかわらず、謙虚を貫き通す。そりゃ完璧だわ」


「もはや俺たち凡俗が追い付こうとすること自体がおこがましいくらいだ」


 神楽坂はふうと、小さく息を吐き自分の席へ戻って行く。


 ほんと大変そうだな。


 そう思っている間にも、査定はドンドン進んでいき、ついに俺の番まで回ってきた。


「お前で最後だな、梓」


「ああ」


 俺はテスト用紙を見せる。


 眉をしかめながらじっと見定める監視人。


 お前は厳しめの母さんか。なんなら俺の母さんより母さんしてるぞ。


 なんで学校でこんな気持ち抱かなきゃならんのだ。


「平均50点……前と全く同じじゃないか。反省しているのか?」


「まあ反省はしてるけど……」


「してる……?」


「はあー。してますけど……」


「口の利き方に気をつけろ、Dランク。そんなんだから落ちこぼれているんだ、カス」


 クスクスと忍び笑いが聞こえてくる。


 こんなに直球な罵倒、ちょっと変化球混ぜるとより光るぞ。てか、お前らの中にも俺より低い点数のやつ絶対いるだろ。


 というか、平均50点は別に低い点数ではないと思う。


 低くても、中の下といったところ。


 おそらく、俺のコミュ力の低さもあるだろうが、一番はDランクの俺を蔑みの対象にして、他の生徒のモチベーションを保つためだろう。


 俺が着席すると、監視人は締める方向に話を進めた。


「ではこれで査定を終了する。各々思うところはあるだろうが、目指す方向は同じ、上あるのみ。AやSランクを目指して精進するように」


 そう言って、監視人も自分の席へ戻って行った。


「とは言ってもSランクって神楽坂さんレベルだろ〜?俺らじゃ到底敵わないって」


「だな〜。神楽坂さんと釣り合うのは同じSランクの生徒会長とかじゃね?」


「ほんとそれな〜。間違っても俺らBランク程度じゃ相手にもされねえぜ」


「逆に神楽坂さんが生徒会長以外と付き合うとかになったら現実かどうかを疑うね」


「別に付き合えるかどうかの話はしてなかっただろ。まあ否定はしないけど」


 他の生徒も色々と雑談を繰り広げているが、ほとんどが神楽坂すげぇという話。


 いやはやほんとすげえとは思うけどな。


 こういう話が湧き出るたびに、俺は神楽坂とは釣り合わないなと思わざるを得ないのだ。


 ていうか、俺が神楽坂に面倒を見てもらっているとか知られたら、俺より神楽坂が被害を被りそうだ。


 だから絶対にバレてはいけないし、ゆえに好意を告白するなんてできないのだ。


 全てはレッテルを貼らせているカーストのせい。


 ほんと消えねーかなーカースト。

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