カースト底辺の俺と頂点のクーデレお嬢様は両思い〜いつか必ず付き合いたいから、皆に隠れて二人きりの時間を過ごす〜
下蒼銀杏
近くて遠い好きな人
第1話 神楽坂小夜は一緒にいたい
好きな人がいる。
でも、その人は俺から遠い場所へ引き離されてしまった――
「痛ってえなあ!どこ見て歩いてんだよカス」
「すみません。よそ見していたあんたにぶつかった俺が悪いですよね。ほんとすみません」
「てめえ、Dランクのくせに調子こいてんじゃねえぞ」
「グハッッ!!」
昼休みの廊下でモブ男に容赦なく殴られた
DランクとかAランクとか、この学校の生徒会長は非公式でよくこんなバカげたものを作ったよな。
私立
クラスごとではなく、一人単位で分けられているので、要は同じクラスにAとかDが入り混じっているのだ。
腕章を見れば誰が何のランクかはすぐにわかるようになっている。
競争主義の生徒会長には悪いが、Dランクの俺からすれば面倒極まりない。
比較的少ない人数に調整されているDランクは言わば、虐げるには格好の的なのだ。
何かの手柄は全て上級のランクに。悪事はだいたいDランクのせいにされる。
どうせ黙ってても嫌なことをされるだけだ。そんなんだから格上相手でも悪態の一つや二つくらいつきたくもなる。
「おい、何ニヤついてやがる。舐めてんのか、ああっ!?」
おっと。自嘲の笑みすらそう取られてしまうか。もうどうしようもねえな。
今度は胸倉を荒く捕まれ、太ももに重い膝蹴りをくらった。
「ッッッッッッ!!!!」
やっべえ。結構痛い。今のは深いところに入ったわ。ほんとに痛てえ。
「おら、謝れ。土下座してあの消火器を舐めて綺麗にしたら許してやるよ」
「消火器に恨みでもあるんか!?」
「あ?」
「なんでもないです」
あーもう詰みだな、これは。抵抗したらもっとめんどくさそうだし、さっさと舐めるか。
後で人がいない三階の校舎の水場で口を洗おう。
気だるげな足取りで消火器の前まで赴く。
先生なんて助けてくれやしない。あんなのは権力の犬だ。
なんせ、生徒会長の父はこの学校の理事長なのだ。その上、生徒会長は全国模試一位の秀才。
そんな才能の塊を守りたくなるのはもはや当然なのだろう。
消えねーかなーカースト。
カーストがあるから人は息苦しく生きなきゃいけないんだ。なければ俺だって中学のときにあんな思いをせずに済んだかもしれないのに。
「うわーまじでやるぞこいつ」
「ほんとキモい。ありえないんだけど」
周りから野次がひそひそと飛んでくる。
ほんと哀れだよなお前らも、俺も。
ゆっくりと舌が消火器に近づいていき、あとちょっとで触れそうだったその時だ。
あいつが来た。
「その男を少しばかり借りてもよろしいでしょうか」
ハーフアップのさらさらした黒髪をなびかせ、女が言った。
「え、あ、か、か、
俺はお中元かよ。
さっきまで意気揚々と暴行を加えていた奴とは思えないな。
すると、神楽坂は冷えた声音で言葉を発した。
「私が欲しいと思ったものがつまらないと、あなたはそう仰りたいのですか?」
「い、いえそんなことは……滅相もございません」
俺はモブ男の変わりようが見てられなくなり、周りに視線を移す。
「キャー今日も
「なんて高貴なのっ」
「あのガラス細工のように繊細な肌はどうやったら身に着くのでしょう」
「神楽坂さんのあの目で睨まれてえ」
「おい、失礼だぞ。Sランク相手に無礼を働くべきじゃねえって。まあ俺も睨まれてえけど」
とまあ、いつも通りな反応だな。
有名な財閥のお嬢様である神楽坂は成績優秀で、武道や茶道、ピアノコンクールで優勝経験ありで、その他諸々の心得も持ち合わせていることもあり、この学校では一躍の人気者、というより尊敬の対象である。
基本的にA~Dで分かれるランクには例外がある。
それはSランク。
この学年に四人しかいないランクで、その内の一人が生徒会長、もう一人がこの
「ではこの男は昼休みの間、私が預かります。二人でやることがあるので邪魔しないでくださいね」
「わ、わかりました!」
モブ男の返事を聞くと、神楽坂は尻もちをついたような格好の俺を視界に捉える。
「さあ。早く立って私についてきてください」
「あ、ああ」
俺のことをその男とかこの男呼ばわりしたり、命令口調だったりとやはり高飛車な印象を受ける。
まあ、そうするように俺が言っておいたんだがな。
優雅に歩く神楽坂の後を俺が追っていると、周りからコソコソと声が聞こえる。
「いつもあの二人って何してるんだ」
「え?お前知らねえの。奴隷だよ奴隷。あの梓とか言う冴えない男は神楽坂さんの財閥に借金してて、返せないから代わりにちょくちょくこき使われてるんだって」
「うーわマジかよ。さすが底辺のDランクだな」
「あの神楽坂さんの近くにいられるとしても、マジでDランクにだけは落ちたくないな」
「それな。みんなから蔑まれるとかマジで勘弁だわ」
奴隷じゃねえし、借金もしてねえ。噂に尾ひれがつきまくってるが、都合がいいのでそのままにしておこう。
「
「はい。小夜様」
どうやら先で待機していた神楽坂のメイド(と言っても同い年の女の子でもあるので、普通に学校に在籍している)はそれだけで彼女の意図を理解したようだ。
「では皆さま。小夜様はこれから大事な用事がありますので、自分の教室へお戻りください。くれぐれもストーカーまがいのことは止めていただくようお願い申し上げます」
恭しく宣ったかと思えば、最後の一言に殺気を感じた。
「もし粗相をしてしまえば、罰が当たりますよ」
余程怖かったのか、他の生徒は速やかに立ち去っていった。
これから何が起こるのか。
俺は心の中で思春期の男子らしい覚悟を決めた。
――――五分後。Sランク特権で借りた他に誰もいない屋上での一幕。
「はい。梓くん、あーん♡」
「い、いや。だから自分で食べられるって」
これが神楽坂のやりたかったことだ。多分、俺とあのメイド(今はいない)以外は彼女のこんな顔知らないだろう。
神楽坂はやや声のトーンを落として呟いた。
「で、でも男の人と親交を深めるにはこうするのがいいって暗根(さっきのメイド)が……」
「またそれかよ。いい加減疑うってことを覚えろよ」
「うぅ……」
「な、なんだよ」
「梓くんは私のこと、その……迷惑だと思っていますか……?」
それはなんというか、ずるい。そんな泣きそうな顔されたらこっちが折れるしかないだろ。
「わ、わかったよ。食べればいいんだろ。ほらっ」
そう言って、俺は神楽坂に差し出された小さめの唐揚げにかぶりつく。
「うん。やっぱうまい。すごいな」
「わゎ……その、ありがとうございますぅ……」
「お礼を言うのは俺の方だよ。いくら料理が趣味だからって毎回弁当作ってもらってるんだから」
「いえ、そんなにお気になさらないでください。私が好きでやってるだけですので」
下を向き、もじもじしながら自信のなさそうにしていた神楽坂は急に「ひゃあ」と可愛らしい声を上げて、
「い、今の好きって言うのは料理がってことで、その、梓くんが恋愛対象としてとかそういうのではないですよっ」
と取り繕う。
わかっとるわ。どんな勘違いだよ。
でも、まあ。
神楽坂がほんとに俺のことを好きでいてくれているのならどれだけ幸運なことか。
だって、俺はDランクのくせに神楽坂のことが好きになったんだから。
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どうも酒と金と女(二次元)が大好きな作者の蒼下銀杏です。
まずは1話を読んでくださった読者様!誠にありがとうございます。
僕は嘘つけないので遠慮なく言います。できれば次も読んでほしい。(笑)
また、面白い、続きも読みたいと思っていただけたのであれば、レビューがコメントを頂ければ幸いです。なおコメントには原則返信しませんのでその点はご了承ください。
厚かましいとは存じますが、これからもよろしくお願いいたします。
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