夢は消耗品

 歳を重ねるごとに夢を追うのが難しくなる。

 世の中やりたい事を好きなだけやれる人間がどのくらい存在するのだろう。

 大半は私のようにくたびれながら追っているのか分からない程度に進み続けていると思いたい。


 私には夢がある。音楽で生きていきたい。


 学生時代に作った歌を口ずさみながら終電を降りると、私と同じように消耗した世界が目の前に広がった。


 ギターを弾きたい。


 歌を歌いたい。


 学生時代の友人は結婚ラッシュに乗り遅れまいと情熱的に活動している。


 私はどうしてもそんな気分になれず、休日は重たい体を横にしながら相変わらず音をつくっていた。


 そういえば彼はどうしているだろう。


 隣の席だった彼は、私の歌を好きだと言ってくれた。


 街灯が照らす帰路で、静かに歌う。あの時彼のためにつくった歌だ。


 ヒールでリズムをとって、途中で止める。


「あ、」


 彼の名前が思い出せないことに気づいて、もうだめだと目を閉じる。


 脳内で子守唄と彼の顔が混ざって溶けていった。

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