選択制世界
どうやらこの世界の裏側には別の世界が存在しているらしい。
なぜ分かるかって?
それは私が時々、無自覚に世界を行き来しているからだ。
どうも私の存在は眠っている間に裏側に落ちてしまうようで、裏側で眠るとまた表側に浮上する。
表と裏の世界に大きな違いはない。
彼が居るか居ないか、ただそれだけの違いだ。
彼は裏側の世界の住人で、表側の私をよく思っていない。
嫌われる理由は分かっている。私は彼と同じだからだ。
私は表側にしか存在しない。彼は裏側にしか存在しない。表と裏の世界の違いは、私と彼の差異によるものなのだ。
彼が居なくなったらこの裏側の世界は表側と同化する。きっと彼は、それが嫌なのだろう。
表側の私の居場所は裏側の彼の居場所。
表側の私の友達は裏側の彼の友達。
そんな構造になっているものだから、私が突然こちらに現れて自分の存在に成り代わられたくないのだと思う。
それが勘違いだと言うのに。
「在るべき場所に帰れ」
彼は険しい顔で私を睨みつける。
「私は貴方の敵じゃないよ」
私は彼の勘違いを解きたいだけなのだ。彼は私を世界の異物として見ている。そうではないのに。
「私と貴方は一緒。同じ存在なんだよ。どうして分からないの。貴方は私なのに」
「来るな! お前は俺じゃない! 俺は俺ひとりだけだ」
「そう、世界の杭たる者はひとりで十分」
ひとつになろうよ。
私はずっと笑顔でいるのに、彼はどうしても笑ってくれない。
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