夏の大三角関係

 彼はどこか別の星から来たのかもしれない。そう思うほどに飽きることなく星空を眺めている。ベガ、デネブ、アルタイル。楽しげに星の名前を唱える彼を止めることはしなかった。


 彼の好きなものを好きになりたいと思って星座の本を読んだりしたけれど、あまり興味が湧かない。私はどうやら好きな人の好きなものを好きになることが出来ない気質らしい。


 ベガ、デネブ、アルタイル。

 ベガ、デネブ、アルタイル。


 心の中で何度繰り返してもどうにもならない。彼の心が余すことなく私で満たされていてほしいと思うのに、彼は空に浮かぶ三角形に夢中なのだ。


 ある日彼は不思議なことを言ってきた。星が私を見ていると。夜空に点々と浮かぶその一つ一つが常に私の方を向いているのだと。想像するとなんだか気色が悪い。けれどもし本当にそうならば、少しだけざまあみろと思った。


 私たちは一方通行で永遠に交わることのない視線の送り合いをしている。

 その中できっと彼だけが首を痛めることになるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る