ラストチャンス

「そうですか。どうしても考え直してもらえないのなら仕方がないですね。出直します」


 憎らしいほど感情を読ませない彼は聞き飽きたその台詞を吐いて指先から砂になって消えた。


 今日で何度目の邂逅だろう。何度消しても彼はまた私の前に現れる。物理的に殴り倒しても呪詛をかけても何をしても私の前に舞い戻る。一度不死身なのかと問うたところ、違うと答えが返ってきた。ならば何だと言うのだ。


「貴女の力は僥倖です」彼は言った。


「質量の消去、物体のゼロ化、存在の否定。貴女のその力は天から与えられた祝福の一種に違いない」


 私を何かに勧誘したいのか、神の教えを説きたいのか、彼はいつもただひたすらに私に与えられた力について恍惚の表情で語る。

 この力は少なくとも彼の言う祝福などではないことは物心ついた時から気づいていた。なるべく使わないように生きてきた。それなのに彼の執念じみた熱意に押されついつい彼に向けて使ってしまう。それでも彼を消すことができない。


「貴女と貴女のその力を私に下さい」


 毎度のことながら本当に熱心だ。私は最早ルーチンと化したやりとりにため息をついて首を振る。


「そうですか。どうしても考え直してもらえないのなら仕方がないですね。出直します」


「ただし次が最後です」


 私は驚いて彼を見た。いつも同じことを話すだけの永久機関かと思っていた。言葉の意味を計りかねて彼を睨む。


「私も不死身ではないので」


 嘘をつけ。それなら彼は何度も死んでいる。私が何度も殺しているはずだ。ざわりと湧く胸騒ぎとともに嫌な予感がした。


 私が彼を消すたびに彼ではない何かが消えている?


「貴女は私の福音です」


 一番消したいものが消せないのなら、私の存在に意味はない。それを求める手がない限りは。

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