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平行世界の私が鏡の中から語りかけてきた。
あちらの世界はこちらの世界とほんの少しだけ違う分岐を辿った結果、崩壊寸前らしい。
私は馬鹿馬鹿しくなって鏡の前から去った。別の世界の私が助けを求めてきたところで何も出来ることはない。鏡の中の私はしきりに「x軸が」だの「y軸が」だの喚いているが、静かに崩壊を待つことは出来ないのだろうか。
こちらは夕食のメニューを考えていた方が有意義だ。今日は彼が出張から帰ってくる日。彼の好物をたくさん作らなくてはいけないのだから。
「ただいま」
戸の開く音と彼の声が響く。予想以上に早い帰りだ。食卓にはまだ何も用意出来ていない。
焦る私に気付くことなく、彼が部屋に入ってくる。その瞬間、先程まで別の世界の私が映っていた姿見が大きな音を立てて砕け散った。それと同時に、彼の体がブツリと嫌な音を立ててかき消えてしまう。
私は突然の事に膝を折り、砕けた鏡片を呆然と見つめた。足下に散らばる小さな鏡の中では、彼が必死の様相で内側から鏡面を叩いている。
おい私、z軸も狂っているのなら初めからそう言ってくれよ。
鏡の欠片を拾い上げて照明に透かすと、彼は次第に見えなくなっていった。
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