アフターストーリー

アフターストーリー1

「え? 付き合ってるんですか?」



 お昼休み、お弁当を食べていた手が止まって田中とその彼女が二人を見る。



「うん。凛に、大人の女にされちゃったから……」


「――!」


「――~~」


「…………」



 わざとらしく凛の腕を取って身体を寄せる紗綾は、凛の顔を覗き込んで楽しそうにしている。

 田中とその彼女、三人の視線が向けられて凛は困っていた。

 普通に付き合い始めたというのなら、凛がこんなに困ることはなかっただろう。

 少し挑戦的な目をさせている紗綾を見て、この状況を楽しんでいるようにしか凛には見えなかった。



「内緒にしとくんじゃなかったんですか?」



 凛がどういうことですか? と訴えるような目で紗綾に言った。

 すでに二人の関係は公認のような状態になっていたので、わざわざ付き合い始めたことを言う必要はないんじゃないか? ということに二人の間で話し合ったこと。


 ほぼ同棲していることを内緒にしているのと同じ理由。

 別にうしろめたいことがあるわけではなかったが、紗綾の仕事を考えるとわざわざ自分たちから公表する必要もないということに落ち着いた。



「う~ん。二人だけの秘密の関係もよかったんだけど、言いたくなっちゃったの」



 紗綾のこの言葉が公言になったのか、クラスの女子たちから声があがる。



「なんかわかるぅ~」


「つい言いたくなっちゃうんだよねー」


「紗綾先輩可愛すぎるよぉ~」



 もはや紗綾がなにをしたとしても、女子たちの好感度は変わらないように凛には見えた。



「紗綾、せめて他の言い方でもよかったと思うんですけど」


「もう私の身体、凛がいないとダメになっちゃったんだもん。ちゃんと責任取って?」


「「「「「「「「「「きゃー」」」」」」」」」」



 小さい顔を少し傾げて言う紗綾に、クラスの女子たちがまた声をあげる。

 こんな困らせるような状況にされてしまっているというのに、それでも凛は紗綾を可愛いと思ってしまう。


 俺、完全に尻に敷かれちゃってる気がするんだけど……。



「凛、送ってほしいな?」



 お昼休みももう少しで終わりそうなタイミングで紗綾が言う。

 紗綾の要望に応えて、凛は紗綾と教室を出た。

 そんなに距離があるわけではないが、紗綾が凛の手を握る。

 二人は手を繋いで、三年生の教室がある上のフロアに向かって階段をあがった。



「紗綾?」


「来て」



 紗綾は三年のフロアをそのまま通り過ぎ、さらに階段をあがる。

 階段の先は机などが置かれた小さなスペースになっていた。



「凛――」



 凛の首に腕を回して紗綾がキスをする。



「キスして」



 紗綾にせがまれて、凛はお昼休みギリギリまでそこで紗綾にキスをした。




 三時過ぎ、凛のマンションに来ている女性。

 凛の母親である京子だった。

 凛が一人暮らしを始めて、この部屋に来るのは二回目。



「まだ帰ってきてないか」



 京子から見て、凛は年齢のわりにしっかりしている。

 凛は京子の今後のことも考えて家を出た。

 でも京子からすれば、一人暮らしにはまだ早いんじゃないかという気持ちも持っていた。

 それはたぶん凛がどうこうということではなく、京子がもう少し凛の世話をしていたかったという気持ちがあったから。


 だから凛は定期的に実家に帰ることが約束になっている。

 凜もそれは嫌ではなかったし、凛が帰るとご機嫌な京子の顔を見ると安心もした。


 たまには様子を見ておこうと来た京子だったのだが、思った以上に凛が暮らしている部屋は掃除が行き届いていた。

 お風呂もトイレも京子がすることはなかった。

 そして京子の目に止まる。

 洗面所に二人分の歯ブラシが並んでいた。




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 こちらの作品ではお久しぶりです。

 完結して一ヶ月が経ちますがその後もけっこう読まれていまして、完結時よりフォロワーさんが若干増えている状況です。

 評価も未だにちょくちょくいただいていて、うれしく思います。

 思わぬ完結を迎えたこちらの作品ですが、読者さんの言葉で少しだけ読者サービスをさせてもらうことにしました。


 カクヨムに投稿を始めて今月で一年が経ちます。

 けっこう以前から僕の作品を読んでくれている読者さんもいて、最終話とあとがきに「続きが読みたい……」とコメントをいただいていました。

 二回も書くなんて、よっぽど読みたいのかな? なんてふと笑みが出てしまいました。


 ちょうど一年というのもありますし、サービス的なことをと考えてアフターストーリーを数話させていただきます。

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