第18話 ジッと見る田中
お昼になると、田中が凛の下に真っ先に寄って来た。
「倉敷、昼飯一緒にしようぜ。仲里さんのことも聞きたいし」
田中がお昼を誘ってくるが、紗綾との約束が凛にはある。
加えて紗綾と半同棲のような状況は、一応紗綾との間で秘密ということになっていた。
噂がどういう方向に向かってしまうかはわからない上、それを修正するのも大変だからだ。
そんな煩わしいことをあえて抱え込みたくもないということで、半同棲という部分は秘密ということになっている。
なので凛からしたらあれこれ訊かれるのは避けたいところだ。
とはいえ、まったく話さないのもあとにどう響くかわからないというのと、お弁当についてのこともあったので、凛は田中とお昼を一緒にすることにした。
一つはお弁当のこと。
お弁当は今日だけとは限らない。むしろ今後もある可能性のほうが高いのだ。
今日だけ逃げても問題を先延ばしにすることにしかならないので、今日のうちにこの問題は片付けてしまうことにした。
もう一つは田中の質問。
これは紗綾が一緒ということであれば、なんでもかんでも遠慮なく訊いてくるというのを防げるのではないかという期待からだった。
「りーん!」
紗綾が凛の名前を読んで教室に入ってくる。
クラスは今日も紗綾が現れたことで、またざわつき始めた。
先週から立て続けのできごとに、一過性のものではないのではないかという疑念の声が凛に届く。
「え! 倉敷? 今日も仲里さんと一緒なのか?」
「うん。紗綾、今日は田中と一緒でもいい?」
「さ、紗綾?」
「お友達? 別にいいよ」
「な、なぁ、倉敷? 仲里さんのこと、いつもそうやって呼んでるのか?」
田中の目は真剣そのもので、確認せずにはいられないという雰囲気を出している。
そんなやりとりを凛と田中がしているなか、紗綾は空いている机を凛の机にくっつけていた。
「紗綾にお願いされて……今はそう呼んでる」
照れがあったのか、若干声を落として凛が答える。
それに喰い付いたのが紗綾だった。
「なぁに? もしかして私の名前を呼んで照れてるの?
いつもその声で、紗綾って呼んでくれてるじゃない?」
凛に寄り添うように寄って、わざとらしい仕草と声。
紗綾がこの状況を楽しんでいることが凛にはわかったが、田中はそうではなかった。
凛と紗綾がお弁当を食べ始めたというのに、田中は一向にお弁当を広げていない。
「い、いつもそうやって? それに、その弁当……。
お揃いで、中身も一緒じゃないか!
倉敷? お前いつもコンビニとか、おにぎり持って来るくらいだろ?
その弁当、どうしたんだよ?」
「私が作ってあげたの。美味しそうでしょ?」
笑顔で田中に言う紗綾だが、凛には田中で楽しんでいるようにしか見えない。
田中も二人に遅れてお弁当を食べ始めるが、ずっと凛と紗綾のことを見ている。
まるでそういうゲームかのように、ジッと見続けているのだ。
「仲里さん?」
「ん? なぁに?」
「先週は違ったみたいですけど、く……倉敷と付き合ってるんですか?」
「ん~ん。今はまだ付き合ってはいないよ。
今は私が凛のことを攻略中だから。
でも、そのうち私、大人の女にされちゃうかも……」
自分の身体を両手で抱きしめ、凛のことを見る紗綾。
紗綾のこの動きと発言で、周囲からの視線が強くなった。
女子はキャーキャー騒ぎ、男子は寡黙にお弁当を食べているか見てくる。
周囲は紗綾の言ったその先を想像しているのか、反応がいろいろだった。
学校が終わり、凛はバイト先である駅ビルへと向かう。
放課後に紗綾がクラスに来ることもなく、まっすぐバイトに向かうことができた。
いつものようにロッカーで着替えを済ませ、みんなに挨拶をしていく。
そのあと予約状況を確認した。
月曜日ということもあり、少しだけ予約の件数は少ない。
六時になり、レストランの扉が開く。
だが六時台に予約をする人は少なく、集中するのは七時台と八時だ。
だが今日は珍しく六時半に予約が入っていた。
「ご、ご予約頂いたお名前を頂戴いたします」
「
現在CM、ドラマと主に女優業で人気の高い芸能人。
芸能人の来店に、案内のホールスタッフが驚いていた。
さすがに予約の段階で、芸能人かどうかなどわかりはしない。
急遽セレブ用になっている個室へ席を変更することになった。
「なんか、受付慌ただしいですね?」
「予約リストに入っていないお客様でも来たんじゃないか?」
凛の質問に社員であるスタッフがあり得そうな予想をするが、その予想が外れていたことがすぐにわかることになる。
「倉敷! お前に個室の担当してもらうから、飲み物のメニュー持っていってくれ」
「個室ですか?」
「芸能人の
「「――!」」
さすがに芸能人が突然来店ということもあり凛も驚いたのだが、それよりも疑問がすぐに出てきた。
「個室の対応を僕がするんですか?」
「なんか倉敷の知り合いみたいでご指名なんだ」
「いや……僕は
「とにかくご指名だから、倉敷が個室担当だから頼むな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます