第4話 不審者
仲里さんが笑顔で凛に言ってきた。
「家に来たってなにもないですよ?」
「こういうのってなにかあるからとか、そういうことじゃないと思うよ? あっ!」
仲里さんは少し頬を膨らませて抗議の目を凛に向けていたが、それがすぐに変わった。
なにかに気づいたような表情。
上目遣いで凛を覗き込み、唇をアヒル口にして挑発的に口を開いた。
「凛くん? 私となにかしたいの?」
言葉と一緒に凛の腕をしっかりと抱きしめ、女性らしさを主張している部分が押し付けられていた。
まだ学校からそう離れてはおらず、周囲にいる学生の視線が二人に集まってしまっている。
「仲里さん、みんな見ています」
「うん」
仲里さんはこういう視線に慣れているのか、全然気にする素振りがない。
「いや、もう少し離れたりしません?」
「ねぇ? ちょっと顔が赤くなってるよ? お姉さんの胸の感触に感動しちゃった?」
「――~~」
お互いまだブレザーを着ているとはいえ、そのやわらかい感触は感じることができた。
性的なアプローチに少し押され気味の凛を見て、仲里さんは譲歩するような形で話を進める。
「凛くんが恥ずかしくて死んじゃいそうだから、今はこれで許してあげるね。
その代わり、お家に連れて行って」
腕をしっかりと握っていた仲里さんの手が下の方に下りていき、二人は手を繋ぐことになった。
そのまま仲里さんは笑顔で凛の手を引き、駅へと歩き始める。
手を繋いでいる状況ですら凛にとっては恥ずかしさがあったが、それでもさっきよりかはいくらかマシなように感じて、凛は仲里さんに引かれるままに従った。
「凛くん? 降りる駅ここなの?」
「はい、そうです。どうかしましたか?」
「もしかしたら、お家近いかも」
「仲里さんもここなんですか?」
「うん。もしかして、運命だったりして?」
茶化すような、凛の反応を楽しんでいるような顔で仲里さんが凛の手をぎゅっと握った。
細く長い指が凛の指と絡まる。さらにぎゅっぎゅっとして、仲里さんは凛に案内をせがんだ。
「早く行こ?」
しかたなく凛はそのまま手を引いて案内する。
部屋に入ると仲里さんはキョロキョロと部屋を見回して訊ねてきた。
「凛くん、もしかして凛くんって一人暮らしなの?」
凛が住んでいる部屋は、母親の再婚相手である義父の分譲マンションだ。
間取りがワンLDKでもあったので、仲里さんが一人暮らしだと推測してもおかしくはなかった。
「そうです。ちょっと家庭の事情で、今は一人暮らしをしています」
「そうなんだ。私も一人暮らしなんだよ? 一緒だね」
「仲里さんも一人暮らしなんですか?」
「うん。私、お仕事の関係でこっちに来てるんだ」
「飲み物用意しますね。紅茶でいいですか?」
「うん、ありがとう」
紅茶の用意をしている間も、仲里さんはキョロキョロと部屋を見回していたのだが、凛は密かに緊張していた。
今まで凛は、女子を家に連れてきたことなど一度もない。
加えて相手は、学校でも有名なモデル。
外では周囲の視線が凛を戒めることになっていたが、家ではその視線がない。
自然と意識が仲里さんへと向いてしまい、その結果部屋で二人っきりという状況にドキドキしてしまっていた。
紅茶のセットを木製のトレーで運ぶ。
仲里さんはキョロキョロしながらも、リビングに座っておとなしく待っていた。
ブレザーを脱いでいた仲里さんのウェストはキュッとしていて、長い脚は女性らしく斜めに折りたたまれて綺麗に揃えられている。
「ソファに座ってくれていてもよかったのに」
「フローリングだったらそうしていたと思うけど、ラグが敷いてあるからいいかな? って」
凛は紅茶を飲むときはミルクティー派なのだが、仲里さんも牛乳を入れているところを見るとミルクティー派なのかもしれない。
レモンの用意がなかったので、もしかしたらレモンティーのほうが好みという可能性もあるのだが。
ミルクティーを一口飲んでも、凛の心はなかなか落ち着かない。
こんなふうに女子と二人っきりになることなど、今までなかったことだ。
ミルクティーを飲んでお喋りをしながら、仲里さんはなにかを思案しているように見える。
凛からはなにを話したらいいのかもよくわからなかったのだが、意外にも仲里さんはミルクティーを飲み終わるとすぐに帰ってしまった。
凛からしたら拍子抜けしたような感じ。
別になにかを期待していたということではないのだが、家に来たがっていたということもあり、こんなにあっさり帰るとは思っていなかったのだ。
凛はそのあと、いつものように少しゆっくりしたあと食事を取り、そのあとお風呂に入った。
そして夜九時を回った頃、カチャっと玄関の開く音がした。
凛の警戒感が一気に高まる。通常こんなことはまずない。
オートロックのマンションで、玄関には鍵がかかっているのだ。
状況から考えるとドロボーということが頭を過る。
パッと周囲を見て選んだのはダイソンの掃除機。
他に長いものはすぐに思いつかなかった。
リビングまで来られてしまうと対処が大変そうだと考え、凛は心臓がドクンドクン脈打ちながらも廊下まで出ることにした。
「ただいまぁ」
だが玄関から入ってきていたのは、さっきまでこの部屋にいた仲里さんだった。
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