セッカside

「ふんふふーんふーん」


「チナ…機嫌…いい…?」


上機嫌で鼻唄を歌いながら男の髪型を整えるチナ

えーと、この人誰だっけ

首を傾げていると


「彼は、第一王子ですよ。

唯一この場で姫様を助けていた人間です」


耳元でボソッとセラが教えてくれたんだ 

むぅ、少し耳がこしょぐったいや


「まぁねぇ。いい拾い物したし。

よしっ!ねぇねぇ!上手く切れたと思わない!?」


さっきまでは、胸まである髪を1つに纏めて後ろに流してたけど

チナの手によって横は刈り上げられてサッパリしてる

癖毛なのか上にある髪の毛がピョコピョコはねてる!


手で抑えても離すとすぐまたピョコンっと立つ。

面白い!


「ミヤネ様。申し訳ないですが少しだけ我慢して下さい

どうやら、少し楽しくなってしまったようで。」


「あ、私は全然大丈夫です!」


「後仕上げはー、アヤメー服頂戴!!

サスケのみたいなの!」


「なんじゃ、急に… 」


「えー、だってさぁ生まれ変わるには形からでしょ!

この国の物なんて全部捨てちゃいたいじゃん?」


アヤメは、姫様の次に美人だと思う。

キリッとした目に艶のある赤い唇。

でもね、セラが言ってたんだけど

アヤメは女の子じゃないんだって!

初めて聞いた時は凄く驚いたなぁ


「ふむぅ…コヤツはサスケより小さいから少しブカブカになってしまうぞ?」


「いいよ!後はこっちで調整するし!」


「…お主は裁縫はからっきしであろう?

妾は忘れてはおらぬぞ?お主が作ったあのおぞましいぬいぐるみを…」


あー、あれはびっくりしたなぁ。

小さかった姫様に玩具をあげることになったけど

やっぱり自分達で手作りがいいよね!ってなってアヤメに教えてもらいながら作ったんだけど

皆チナはクマのぬいぐるみを作ったはずなのに 

何かゾンビが出来上がってたんだよね…

それ見て姫様が大泣きしちゃったんだよなぁ…

骸が怒って僕達連帯責任で暫く部屋に入れてもらえなかったもん!

骸だけずるい!


「で、出来るよ!

僕だってやれば出来る子なんだからね!」


「お主が、コヤツを穴だらけにしたいなら好きにすれば良いんじゃ」


「あ、穴だらけ!?」


「…アヤメやって。

練習は布でやる…」


悲しそうに耳をションボリさせるチナの頭をポンポン撫でる。


「最初からそういえばいいのじゃ。

サスケ。準備せぃ」


「はっ!」


サスケのシュンシュンシュンッて動くのセラもやれないのかなぁ?

中々楽しそう…


「セッカ様、私はあんな疲れる事やりませんからね。」


「まだ…何も…言ってない」


「言ってなくともわかります。

セッカ様は、顔に出やすいのですよ」


「…っ!

じゃ、じゃぁ…姫様…す、すきって…ば、バレてる!?」


は、恥ずかしいなぁ


「…大丈夫です。

姫様は他者からの好意にはとても鈍感なので。」


「よ、よかった…?」


ん?良かったのかなぁ?まぁ、いいか。


あぁ、姫様いつ僕に会いに来てくれるんだろう。

早く姫様にあいたいなぁ

会ったらまずは何をしようかな。

姫様とお花畑で花の冠を作りたいし姫様と一緒に寝たいし姫様とずっと一緒に居たい。


「セッカ様、鼻血が出てますよ。」


「あ、本当だ…」


姫様の事を考えるとすぐ鼻血出ちゃう…どうしてだろ


「ほら、こっち向いて下さい」


「んー…」


グイッと顎を掴まれ顔を拭かれる。


「あ…目覚めた。」


ピンッと魔法が解けたのを感じ先程までアヒャアヒャ笑ってた奴が正気に戻っていた


「み、ミヤネ!貴方何をしているの!?」


「あぁ、母上。まだ正気を保っているなんて残念です。

母上、貴方が捨てた彼は元気に生きてるんでしょうかね?」


不敵に笑うミヤネ。

誰の話だろう?

凄く青褪めてるけど


「な、何を言っているのです!

早くこの縄を解きなさい!私は貴方の母親よ!?言うことを聞きなさい!!」


こんなのが母親とかやだなぁ。

僕には両親なんて居ないから全部の母親がこんなのなのかわかんないけどさ。

あ、でも姫様みたいな母親だったら欲しいなぁ。

あ、でも母親とは結婚できないんだっけ…?むぅ、それはやだなぁ。


「母親らしい事を何一つしてくれなかったくせにこういう時だけその言葉を言うんですね。

私は、貴方に抱かれた事も子守唄を歌ってもらった事も

ましてや、一緒に遊んでくれた事もないじゃありませんか。

貴方がしたのは、私を責め罰する事だけだった。

私の何がいけなかったのですか?

何故後から産まれた弟達には愛を与えたのにっ

…どうして私は…愛してもらえなかったんですか…?」


悲しげに顔を歪め目からは大粒の涙を流すミヤネ。

何か可哀想…

力が抜けたのか座り込むミヤネの頭をポンポン撫でる。

ミヤネは小さな小さな子どもみたい。

姫様の小さな時を思い出すなぁ


「どれだけ頑張っても貴方達は褒めてはくれなかった…

食事をしても私だけがその場で他人だった…

貴方にわかりますか…?その場に居るのに…居ない者として扱われる気持ちがっ!

何でっ…何でっ家族であった筈の人達はわかってくれないのに

ティアラ嬢や…彼等がっ…私の事をわかってくれるんですか…?

何故なのです…っ」


「セラ…ティッシュ」


「此処にあります。

セッカ様、そんなに擦るように拭いたら痛いと思いますよ?

もっとこうふんわり優しくポンポンする感じで拭いてあげて下さい」


ふんわり優しくってどんな感じでやればいいんだろ…

首を傾げていると


「姫様と握手する時と同じくらい優しくです!」


あぁ!それならわかる!

姫様が怪我しないように力を入れずに優しく握ってる。

緊張して力が入りそうになる度に、セラにハリセンで叩かれるけど

そのおかげで姫様を怪我させたことはないよ!


「私は貴方を愛していますわ…だからこの縄を解いて下さい。

私の可愛い娘達も連れ今すぐ逃げましょう」


うぇー…嘘ばっかりー

セラがよくする悪い顔してる!


「…母上…その言葉を私がどれだけ求めていたか…わからないんですね。

私だって昔のまま成長していない訳じゃないんです。

愛に飢えた私にだって…その言葉が嘘だと…わかりますよっ」


泣きながらヘニャっと力なく笑うミヤネ。


「私っ…貴方達に此処まで嫌われるような事をしましたか…っ?

ティアラ嬢はっ…貴方達に何かしましたか…?

何でっ…何でっ私達は嫌われねばならなかったのです…っ

何故…っ!?」


「チナ…どうにか…しないの?」


今にも掴みかかりそうなミヤネの服を掴みながら腕を組み静観するチナに聞いた。

珍しくチナが無表情だ…!

いつもニコニコ笑顔なのに


「しない。まだね。

今迄心に溜め込んだもの全部吐かせなきゃ。

未練なんてなくなるくらい空っぽにしなきゃ前には進めないでしょ?」


「…僕には…わかんない」


そういうのわかんない。

溜め込んだりした事ない

やりたい事はやるしやりたくない事はやらない。

あぁ、でも姫様には我慢いっぱいしてる

もっともっと姫様といたいのにいれない

何でだろ。

姫様は僕が好きじゃないのかな?

好きだったら一緒に居てくれるよね?

それじゃあ、姫様は僕が嫌い…

嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


そんな事になるくらいなら…いっそ…


「セッカ様」


「んむっ!?」


突然口に広がる甘いチョコレート


「糖分は適度に取らないといけないんですよ。」


「美味しっ…」


もう一個欲しくて口を開けるとセラが口に入れてくれる。

甘い物は好き。

だから、甘い匂いがして甘い味がする姫様も好き

…姫様の血の味は…どんな味かなぁ…へへへ



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