GIFT~あなたの想い届けます~

あいる

エピローグ&case1『立花美咲・中学三年生』


 見た目はしがない古い喫茶店のマスター

 僕の名前は『西さいおんとう

 天使見習い中です、とりあえず今は26歳と3ヶ月

 ━━━あなたの届けたい想いを届けます、お代は一切頂きません。━━


 届けることの出来なかった過去や現在の真心お届けします。



 OPENの看板を店の前に出して今日の最初のお客さまを迎えます。


 case1

 ━━立花美咲━━

 中学三年生


 紺色のブレザー姿の立花美咲は、気になっていた看板のこの店の扉を開けてみた、1人でこんな店に入ったこともないので、ソワソワとしている。


 冬夜はこの街角で「Angel」というベタな名前の小さな喫茶店でオーナーとして働いてる。

 普通の喫茶店ではあるけれど、本来の目的は悩める人の"真心"を届けたい相手へと届けることだ。


 天使見習い中の冬夜には、たくさんの人の感謝の気持ちを貰うことが本物の天使になるための条件であった。

 必要な感謝の数は残り99個、制限時間タイムリミットはオリンピックがあるはずだった今年が終わる時。


「いらっしゃいませ、ミルクティーで大丈夫ですか? 」


 オドオドした美咲は裏返りそうな声で返事をした。


「は……はい、ありがとうございます」


 眼鏡の奥には大人しそうな黒目がちな大きな瞳があり、長い黒髪だということでかえって神秘的な雰囲気を浮き上がらせている。

 この年頃の女の子は冬夜にとっては少し苦手な存在でもあるのだけれど、せっかく足を運んでくれたのだから、話を聞く他ない。


「真心を届けたい相手は? 」

 静かに、話しかけた。


「父さんです、今は一緒に暮らしていないけれど私のホントの父さんです」


 美咲の両親は3年前小学6年生になって直ぐに15年の結婚生活にピリオドを打った。

 それ以来、手紙のやり取りでしか父親とは繋がっていない。


「父さんは毎月3日に届くように手紙を書いてくれています、でも今月はまだ届いていないんです」


 美咲の誕生日は8月3日だったので毎月3日には短いけれど父親の手紙を受け取っていた。

 両親の離婚は、子どもの心に小さな傷をつけた、その罪を償うためなのか優しい言葉が散りばめられた手紙がいつも届いていた。

 今まで届いた手紙はきちんと美咲の部屋のクローゼットに置かれた箱に綺麗に並べられている。


 その手紙は美咲にとって救いでもあった。


 目立たないタイプの女の子は時に仲間外れの対象になる。

 クラスにはほとんど美咲に話しかける人はいない。


 それを気にせずにいられるのは父親から愛されているという宝物があったからだ。

『新しいクラスは楽しい?友だちは出来ましたか? 僕の大切な娘美咲がいつも笑っていられますように………』


 返事を書いた事は1度もない、父親からの手紙には住所は書いていないし、母親に聞いても教えては貰えなかった。


 美咲には、今年初めてと言える友だちが出来た、この春、地方から転校してきた『松田みさき』という女の子だった。


「同じ名前だね」と声をかけられたのがきっかけで2人のミサキは仲が良くなった。

 そのことが嬉しくて、父親に報告したいのだと言う。


 冬夜には、その人の話を聞けば真心を伝えたい相手がどこに住んでいるのかが分かる。

 ただし、本気で伝えたい人である事が絶対条件だけど。


「今月、父さんからの手紙が届いていないことも気になるし、大切な友だちが出来たことも伝えたいたいのです」


 美咲の言葉には澄んだ響きを感じることが出来た。


 しばらく黙って美咲の言葉を聞いていた冬夜は小さな箱の中から、ほのかに輝く石を取り出した。

「手を出して」

 美咲が両方の手を冬夜の前に出した。

 ほんのりとした温かさを感じた美咲はこれからどうすればと言うように、冬夜の目を見た。

 深い藍色にさえ見える冬夜の瞳を見ていると、美咲の頭の中に不思議な光景が浮かんできた。

 白い部屋に真っ白なカーテン、そして真っ白なベッド、その上に大好きな父親の姿が見えた。

 記憶にも残っている父親の姿、写真さえ残っていないけれど、それは紛れもなく美咲の父親だった。


「さぁ、美咲ちゃん、場所はわかった、僕が君の気持ちを届けるのは簡単です、でも君は直接その気持ちをお父さんに伝えるべきだ、一緒に行こう」


「はい、お願いします、父さん……パパに逢いたいです」

 と大きく頷いた。





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