第11話 悲しく残酷な未来

「思った以上に買い込んだな。」


 ハルタが持つ紙袋の中には、沢山のお土産が入っていた。


 二人はただ町を見て回ろうとしていただけなのだが、思っていた以上に魅力的な商品が多く、ついつい買ってしまったのだ。


 今は夕暮れ時、ハルタとエレナはアルミナ邸まで戻って来ていた。


 屋敷の扉まで来ると突然、扉が開かれ、ハルタは身を震わせる。


「お帰りなさいませ。ハルタ殿。エレナ殿。」


 そう言い、二人を出迎えたのはジレイドだった。

 どうやら扉は勝手に開いたのではなく、ジレイドが開けてくれたものだった。


「あ、あぁ。ジレイドさんはずっとここに?」

「いえ、つい先程からこちらで待機していました。」

「そうなんですか。」


 ハルタはそれだけを言い、アルミナ邸へ上がりこむ。


 何か会話を出来たらいいのだが、このジレイドという男から放たれる貫禄のような物に打たれ、会話を持ち出す勇気がなかった。


 その後、ハルタは真っ先に自分の部屋へ向かい、荷物を置いた後、再びエレナと合流する。


「飯はもう出来てるみたいだし、アリル達の所に行くか。」


 そう言い、エレナと共に向かうが、食卓までの距離は遠くない。十数秒で着く距離だ。

 一般的な家庭にとっては長いと思われる長さだが、一ヶ月アリル邸に住んだハルタにとってはそんな距離は慣れっこだった。


 ドアを開けると既にアリルとアルミナが座っており、ハルタ達が帰ってくるのを待っていたようだ。


「あっ、お帰りハルタ。エレナ。」

「ただいま。アリル。アルミナさん。」

「ただいま戻りました。」


 ハルタとエレナは椅子に座り、食事を始める。


「––––そういえばジレイドさんは?」

「ジレイドは私達が食事を終えた後に食べる。あいつはそっちの方がいいらしい。」

「そうなんですか。」


 食事は一人で食べるのも好きな人がいる。きっとジレイドさんもそうなのだろう。


 ハルタが料理を口に入れているとアルミナは突然苦しそうに頭を抱える。


「くっ!」

「どうしたの!?アル!!」


 アリルがすぐさまアルミナに駆け寄り、心配そうに背中をさする。


「だ、大丈夫だ。が来ただけだ。」

「あれ?」


 アリルとエレナは不思議そうな顔をしているが、ハルタにはこの現象を身を持って知っていたので、二人よりは驚きはしなかった。


「アルミナさんの属性って、もしかして無属性ですか?」

「あ、あぁ。よくわかったな。」

「俺も同じ無属性なんで……。それより早く目を閉じてください。」

「あぁ。」


 アルミナは目を閉じ、気を失ったかのように力が抜ける。


「俺も閉じてる時はこうなのか。」

「ハルタ君。これってまさか……。」

「あぁ。多分オートフィールだ。」


 いずれ来る危機を教えてくれる魔法。という事は、いつかアルミナに危機が訪れるのではないかと身構える。


「くっ、」

「大丈夫!?アル!」


 アルミナが目を覚まし、アリルが心配そうな表情でアルミナを支える。


「何を……見たんですか?」

「–––––その前に。私のオートフィールは他のオートフィールとは少し違う。」

「他のオートフィールとは違う?」

「あぁ。私のは自分の未来では無く、他人の未来を見る事が出来るんだ。」

「他人の未来……。」

「さらに、その未来に訪れる時間はバラバラだ。」


 他者の未来を覗き、さらには来る時間もバラバラでわからない。なんて使いにくい力なんだ。と思ったが、ハルタの力も一時間以内かそれ以上に早く対策をしないといけない為、人の事は言えなかった。


「それで見た未来は、君の未来だ。カイドウ・ハルタ。」

「お、俺の……未来ですか?」

「あぁ。君はいずれ、大きな選択をしなければならない時が来る。自分の為に自分を裏切るのか、自分の為に自分を裏切らないのか。」

「自分の為に自分を裏切るのか、自分の為に自分を裏切らないのか?」


 アルミナのよくわからない発言に頭を傾げるが、アルミナも「すまない」と謝罪する。


「私も断片的にしか見れなかったのだ。だが一つだけ言えるのは、君のその選択はどちらも悲しく、どちらも残酷だろう。」

「俺に……そんな未来が………。」


 いまいち実感が湧かないが、おそらくそれは、今まで体験してきたものより、遥かに恐ろしい事なのだろう。


「おいおい、異世界様よ……。俺にどれだけ試練を与えるんだよ……。」


 誰にも聞こえない程度で呟き、頭を下げる。


「大丈夫ですよ。」


 その時、ハルタの隣でエレナは囁く。


「どれだけ過酷な未来があっても私達がいますよ。」


 ハルタは頭を上げるとそこにはアリルとエレナの姿が映った。


「あぁ。そうだな。みんな、みんながいる。」


 俺は一人じゃないよな。みんながいる。だから乗り越えれる。


「ふん。青いな。」


 アルミナは微笑んだ後、ハルタを見る。


「カイドウ・ハルタ。君ならその未来も乗り越えていけそうだな。」

「はい!絶対に乗り越えてみせますよ!!」


 ハルタは勢いよく宣言した後、みんなは食事に戻るのだった。



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