第11話 本気の鬼ごっこ

 走る。ただ、後ろにいる少女が自分を見失ってくれるまで、ハルタはがむしゃらに走り続けた。


 獣道を強引に掻き分け、体中は擦り傷だらけになっていた。


「はぁ……、はぁ、がはぁ……ッ!!」


 既に体力の限界は超えており、酸素が不足し、呼吸をするのも困難になる。


「ゔはぁッ!!」


 とうとう体力も尽き、地面に転がるように倒れる。


 まずい。このままエレナに追いつかれたら……。

 命を失うだけではない。本部に売られ人体実験にやら、拷問もありえる。


「い……やだ!」


 本能が、想像した未来を否定し、這うように逃げる。


「……もう諦めたらどうですか?」


 その声を聞いた瞬間。血の気が引いていくのを感じた。


 優しかったこの声は、今のハルタにとっては恐怖でしかない。


「そんな無様な姿になってまで逃げて……。恥ずかしいとは思いませんか?」

「–––––うるせーよッ!!」


 ハルタはエレナがいる後ろに振り向き、土を投げつける。


「くっ––––!?」


 手で塞がれたが、時間ができた。


 ほんの少し回復した体力を使い、走り出す。


「ぐはっ…。はぁ、はぁはぁ……!」


 少しでもエレナから離れないと……!




 逃げる。逃げる。逃げ続けた。


「いくら逃げても無駄ですよ。」

「クッソ!!」


 いくら走っても追いついてくるエレナに舌打ちをした後とうとう回復した体力も使い切ってしまう。


「––––俺は、狂人者じゃねー……。」

「逃げたくせによくそんな事を言えますね。」

「––––ッ! お前が襲ってきたからだろーがッ!!」


 怒りに任せ、ハルタは大声でエレナにぶちまける。


「だいだいなんだよ狂人者って!?聞いた事ねぇんだよ!俺はこの世界の事全然知らねーんだよ!!」


 もう、全てぶちまけてしまえ。楽になるぞ。


「俺達……仲間じゃ、無かったのかよ––––?」


 思っている事を全て吐こうとして出た言葉がこれだった。


 弱々しく吐いた言葉を聞き、エレナは、


「私とあなたは……仲間じゃありません。」


 そしてエレナは倒れたハルタを連れて行こうとした時、近くで大きな光が現れた。


「なんですか?あれは?」

「し、知らねーよ……。」

「そうですか……。様子を見て来るのでそこで待っていてください。と言っても今のあなたじゃ、動けないでしょうけど……。」


 そう言った後、エレナは光の方へ向かって行った。


 そしてハルタは一人取り残される。




 ***


 ハルタは一人になった事様々な感情がごっちゃになり始めていた。


「どうしてわかってくれないんだよ––––ッ」


 誰もいない森で言葉を吐き捨てると、傷の痛みに耐えながら上半身を起こしていく。


 他人から見てハルタは理解できない存在。狂人と同じ扱いを受けた事にショックと同時に怒りが湧いて来る。



 俺が何したって言うんだよ。

 俺がお前に危害を加えるって言うのかよ。


「ふざけんなよッ!」


 やるわけないだろ!

 仲間にそんな事する訳ないだろ!!


「そう思ってたのは俺だけなのかよ……。」


『私とあなたは……仲間じゃありません。』


 独り。いつ魔獣が襲って来るかわからない森でハルタは涙を流す。

 ハルタが仲間と思っていただけで、彼女はハルタを本当に仲間だと思っていなかったのか?


「あっ––––」


 思い出す。


 あの笑顔は嘘だったのか。


 ––––いや、違う。仲間だと思っていない奴にあんな笑顔は出来ない。


 ハルタは覚えている。嘘偽りの無いあの笑顔を。


 ハルタは覚えている。彼女の優しさを。

 ハルタは–––––。



 再びあの笑顔を見る為に奮起する。




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