第6話 ずっと私と話してるじゃん
ハシヴィー全開だった。シュートをスポスポ入れながら、
「なんかまるで、ハシヴィーのこと好きみたいだね」
「前から言ってんじゃん」
「そうじゃなくて、女性として」
「好きだよ」
放たれたボールが空中で静止する。なにを言っているのかわからなかった。この、私のことを好きなはずの男子がなにを言っているのか、全然わからなかった。
「バカみたいじゃん」
声がしぼんでいくのがわかった。
仁一はゴール下で弾み続けるバスケットボールに手を掛けて、ダンッダンッとドリブルをしながら帰ってくる。
「なんで?」
「だって声しか聞こえないんだよ?」
「人柄が滲み出てくるんだよ。本気で驚いたりして純粋だし、ゲームも上手いから気も合いそう」
「そう言う人が居るから、大人の人に襲われたりとかして事件になるんじゃん。軽率だよ」
「そうか? でも相手が誰であっても俺は構わないよ。マジで。結婚したいと思ってる」
心臓が一度だけドクンと跳ねて、あとはそのまま死んだみたいに動くのをやめた。
「誰でも?」
「ああ」
なんで。なんでなんで。ずっと私と話してるじゃん。学校の中で誰よりも長く居るじゃん。仁一が試合のときは応援に行くしさ、お母さんだってお嫁さんに来ればって言ってくれてたじゃん。そしたら顔真っ赤にしてそっぽ向いて「うるせーなー!」って怒ったじゃん。試合に負けたときは慰めてあげたし、水切りしたあと橋の下で頭撫ぜてあげたじゃん。「わりぃ」と「ありがとう」を一番聞いているのは私。努力と横顔を見続けて来たのも私。それに薦めてくれたゲームもやったよ? 毎回おんなじところで死ぬのが意味わかんなかったし、一面もクリアしてないのにクリアしたよって嘘吐いちゃったうしろめたさみたいなものはあるけどさ。それでもやったよ? それともたまたまやってるゲームが同じだったってだけの人がいいの? そんなことに運命感じちゃうの? いいよわかった教えてあげるよ。現実は仁一よりもバカみたいに残酷だってことを。
「ハシヴィーの正体は
ボールがリリースされた。ゆっくりと、放物線を描きだす。
彼の横顔にはいつもの鷹が居なかった。ただ口を開けている間抜け面。そりゃそうだよね。男子の評価がめちゃ低いのを私は知ってる。みんな口を揃えて「組基はねえわ」って言ってたのを知ってる。そのときに仁一が居たのも知ってる。だからね、絶対なしなんだよ。わかった? 顔が見えてないってこういうことなんだよ。
「マジか」
——ガァンッ。
ボールがリングに弾かれて、盛大な細やかさでバックボードが震えた。
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