チャプター2 もふもふは好きですか?~赤い機神と銀の狐~
第18話 言ったれウェンディちゃん
【BW2】〈HNM〉スレより抜粋
Name たかし 09:18:22
【ルーヴィング】で〈HNM〉討伐されたらしいな
Name たかし 09:18:40
【要塞龍】な
4chでスレ立ちまくってた
Name たかし 09:19:30
あのクソモンスようやく討伐されたのか
Name たかし 09:19:53
>クソモンス
マジそれな
アイツあっちこっち歩き回ってプレイヤーモンスター関係なく焼き払っていきやがるからな
Name たかし 09:20:27
一時期【アメジリア】の国境付近に居座ってたよな
知らないで行こうとしてデスペナくらったぞ
Name たかし 09:20:44
>知らないで行こうとしてデスペナくらったぞ
おまおれ
Name たかし 09:20:45
>知らないで行こうとしてデスペナくらったぞ
あれ俺いつレスしたっけ
Name たかし 09:21:06
【要塞龍】の討伐ボーナスってなんだったの?
教えてエロい人
Name たかし 09:22:31
>討伐ボーナス
機械剣だったかな?
特撮ヒーローの武器っぽかった
Name たかし 09:22:59
めっちゃがぱがぱしてたな
欲しかった
Name たかし 09:23:41
>機械剣
試し振りしてるところ見せてもらったけど、MP消費して銃撃できるスキル持ちだった
連射不可射程1mの激短で火力は8レべモンスを1発で倒せる程度
Name たかし 09:24:17
うーんこの
Name たかし 09:25:00
【要塞龍】君はさぁ……
Name たかし 09:25:37
ハズレじゃねぇか!!!!!1!501
Name たかし 09:26:24
〈HNM〉の装備マジでピンキリすぎへん?
Name たかし 09:26:41
>〈HNM〉の装備マジでピンキリすぎへん?
【エメリウム】の【太陽曄】とか酷かったな
スレが一気にお通夜だったし
Name たかし 09:27:06
>【エメリウム】の【太陽曄】
ドロップなんだったの?
Name たかし 09:27:46
腐葉土
Name たかし 09:28:12
>腐葉土
草も生えない
Name たかし 09:28:39
それだって一概にハズレと言えないぞ
Name たかし 09:29:18
あの【
Name たかし 09:29:47
今北産業
【要塞龍】討伐されちゃったかー
テイムして乗り回したかったんだけど
Name たかし 09:30:04
>テイムして乗り回したかったんだけど
……?
Name たかし 09:30:07
やべーやつきたな……
Name たかし 09:30:29
そもそも〈HNM〉って捕獲できんの?
Name たかし 09:31:56
>〈HNM〉って捕獲できんの?
ドロップでマウントモンスター落ちたって報告がある
本体は無理じゃなかったっけ
Name たかし 09:32:44
>本体は無理じゃなかったっけ
そこのお前!
〈HNM〉もモンスターだから【
成功報告ないけど
Name たかし 09:33:18
>成功報告ないけど
【
情報出てたっけ
Name たかし 09:34:05
出てない
Name たかし 09:35:27
うーんやっぱり無理なのかー
【サンディライト】で狐の〈HNM〉出現情報出たからやってみたかったんだけど
Name たかし 09:36:57
>狐の〈HNM〉
初耳
Name たかし 09:37:19
>狐の〈HNM〉
マ?
Name たかし 09:38:00
【サンディライト】と【ダイヤリンク】国境付近の森林地帯で目撃
全長2メートルの狐
銀色の毛並み
尻尾が4本
ってことくらいしかわかってない
Name たかし 09:38:18
銀色モフモフとか戦争じゃねぇか……
でも今の【サンディライト】ピリピリしてるから行きたくないんだよな
Name たかし 09:38:41
この間のPK騒ぎで大手クランが緊張状態だからな
Name たかし 09:39:38
まあ狐の件はしばらくは静観しようぜ
〈HNM〉なんてそう簡単に討伐されないだろうし
Name たかし 09:40:11
だなぁ
情報が少なすぎるし、出そろうまで待つか
†
俺が【BW2】イベントに参加して、ゲーム内で6日が経過した。
PK騒ぎで気が立っていたルルねぇたち〈サニー・サイド・アップ〉も少しずつ通常営業に戻りつつあるこの時期。
プレイヤーたちは日曜に控えるイベントの準備を始めつつあった。
装備品強化のために、
過去の傾向からイベントの内容を予想し、アイテムを買い集める人。
前回のイベントを忘れるように、【サンディライト】各地は活気があふれている。
そして、俺たちは――
「ヒュージ、もうワンセットいけるよな!」
「任せろ!」
いつも通りレベルアップのためのダンジョンアタック中である。
本日のボスは2mはあるだろう半透明のゼリー状のモンスター、【ゼラチナス・スライム】だ。
『――!』
スライムは俺たちの接近を素早く感じ取ると、まるで粘土のように自身の身体をこねて大口径の砲台に変化した。
「≪カバームーブ≫!」
俺に有効打を与えられないと学習したらしく、砲口はウェンディに向けられていたが、素早くスキルを発動させて射線に割り込む。
「リロード・オン!」
身体を弾丸として【ゼラチナス・スライム】の一撃に合わせ楯を突き出す。
ゼリーの弾丸は俺にダメージを与える以前に、楯に触れた瞬間に消滅した。
簡易ステータスに目を向ければ、ほぼ同時に弾丸のマークが点灯する。
【〈グレイシャル・バレット〉のリロードを確認。ストック2】
グラファイトとの戦いで習得した≪
この弾丸は20時間で1つ空っぽで生成され、最大所持数は3。
しかし、最初からフェイズチェンジに必要なエネルギーが用意されているわけじゃない。
そこで先ほどの『リロード・オン』のワードの出番だ。
唱えながら防御することで、攻撃の衝撃を利用してエネルギーを液状化させ、空のケースへ充填させる。
この時のダメージは無効化されるんだから、ロマンと実利を兼ね備えているのが恐ろしい。
「20時間に1回だけっていっても、ダメージを無効化できるんだからえげつねぇよな!」
ぐうの音も出ない正論と共に、ウェンディが風を裂いて【ゼラチナス・スライム】の背後を取った。
「こっちも負けてられねぇな!〈ガトリングスパイク〉行くぜぇッ!」
ウェンディの怒涛の槍撃がボス【ゼラチナス・スライム】の半透明の身体を切り裂いていく。
弱点の赤いコアがむき出しになった。
「コアへの攻撃はお前の役目だぜ!一気に決めてこい!」
コアには打撃攻撃が有利だが、その周りのゼリー状の身体には打撃が全く効かない。
なので、一々身体を斬撃で切り裂かないといけないのだから、スライム系モンスターの攻略は面倒臭い。
「〈シールドラム〉!」
スキルをキャストし、地面を踏み鳴らす。
ボスのHPは残り2割を切っている。
ここでルーチェさんの攻撃力アップの魔法があれば確実に削り取れる数値だ。
「ルーチェ!」
「え、あ、はい!」
ウェンディがサインを出した。
ルーチェさんが杖を回し、スキルの光を押し広げた。
これでとどめ!
「〈プロテクション〉!」
目の前に突如光の壁が聳えた。
鏡面のような壁に〈エクスマキナ〉が映った。
ふっ、今日も俺の装備する【白き機神シリーズ】は厳かで、見ているだけで背筋を正してしまう冷たい魅力に満ちているじゃありませんか。
ロボットというのは不思議だ。
スーパーロボットとリアルロボットに代表されるように多種多様にカテゴライズされ、万人の好みが一致することは稀なほどロボット作品は溢れている。
しかし、人ならざる人型が秘めたヒューマニティは今尚も多くのファンを魅了し、そして……
「らうんどばっくらぁ!」
そして、盛り上がった気持ちをかっ飛ばすほどに、俺は顔面をしたたかに打ち付けた。
「バイザーが!バイザーが割れるように痛いいいい!」
「お前、何やってんだルーチェ!」
「え!?わああああああ!?ごめんなさい、ごめんなさいいいいいい!」
ひっくり返って悶える俺を追い詰めるように【ゼラチナス・スライム】がのしかかってきた。
必死に押しのけようとするが、弾力のあるボディにどれだけ力を込めても暖簾に腕押し。
「お客様!!困ります!!アーッ!!間接にジェルが入ってます!!アーッ!」
ぬめぬめした感触が絶妙に気持ち悪い!
こうなったらウェンディに切り裂いてもらうしか脱出方法がない!
「ルーチェ、武器強化の魔法だ!」
「はぁ……はぁ……ヒュージさんが、スライムに……」
「だあああああああああああ!しっかりしろルーチェぇぇぇぇぇぇ!」
ルーチェさんも動転している。
これも男性ロボがスライムに絡まれるなんて汚い絵面のせいか。
「魔法!武器!攻撃バフ!OK!?」
「お、おーけー……!〈ホーリーウェポン〉!」
知力が著しく低下したウェンディの指示にルーチェさんの杖がようやく光り輝いた。
ついに俺が欲していた武器強化の魔法が行使された。
かすかに腕が軽くなった代わりに、収束した半透明の触手が俺の蒼いラインをつっと撫で始める。
「落ち着けルーチェそっちじゃねぇえええええええええ!」
「らめええええええええ!?ラインにジェルを這わせないでええええええ!」
「喉仏ぶった切りたくなるようなおぞましい悲鳴を上げるのやめろおおおおおお!」
「ひゅ、ヒュージさんの足が……スライムに食べられて……!ごくっ……」
「生唾呑むな目を血走らせるな支援しろやあああああああああああああ!」
「ウェンディィィィィィィ!早く!早くしないと丸呑みロボ堕ちしちゃうのおおおおおおおおおお!」
「ああああああああああああツッコミが間に合わねえええええええ!」
頭蓋を握り潰さんばかりに取り押さえたウェンディの絶叫がボス部屋に響き渡った。
†
「本当にごめんなさい!」
命からがらダンジョンをクリアした後、『ティミリ=アリス』に戻ってきた俺とウェンディにルーチェさんはしきりに頭を下げていた。
「ダンジョンもクリアできたし、気にすることないよ。な、ウェンディ?」
「……そっすね」
なんて生気のない返事なんだ。
常にバイタリティに溢れているウェンディの物とは思えない。
「それより、もう時間だよルーチェさん」
「あっ、本当でしたっ」
リアルではまだ6時を過ぎた頃だが、今日はルーチェさんは家族で外食するということで早めに解散予定になっていた。
「ヒュージさんは、また明日ログインしますよね……?」
「ほん?」
当たり前なことを聞かれて、思わず間抜けな声が出てしまった。
「えっと、私フレンドが事実お二人だけなので!一緒に遊べないのは寂しいなって思っただけなんです!他意はないんですよ!」
「はーいルーチェさんこっちですよー」
首に手をまわしたウェンディがルーチェさんを引っ張っていく。
「気にするだけ無駄だってアタシ言ったよな?」
「ご、ごめんね……でも、どうしようもないの……」
「そんな生娘みたいなこと言ってどうすんだよ。初恋じゃあるまいし」
「だけどねっ。ごつごつした背中とか、つるっとした二の腕とか思い出しちゃうと胸がどきどきしてどうしようもないんだもん……!」
「人間の体の話をしてるんだよなそう言ってくれよ頼むからぁッ!」
なんだ!?
ひそひそ話てたと思ったら、ウェンディが膝から崩れ落ちたぞ!?
「とりあえず、ウェンディは俺が何とかするからルーチェさんはログアウトして大丈夫だよ」
「は、はい。おつかれさまでした」
心配そうにしながらも、一礼したルーチェさんの姿が解けて消えた。
いつまでたっても膝をついたまま凍り付いているウェンディに声をかけた。
「俺も今日はログアウトしようかと思うが、お前はどうする?」
最近は【BW2】にログインする時間が増えてきて、買ってきたプラモデルが積み気味になっている。
【BW2】は楽しいけれど、プラモデルを放置しているのはモデラーにあってはならない重罪だ。
「時間あるなら、ちょい付き合え」
「重要な話か」
「ああ、ルーチェの話な」
ちょっと真面目な顔でそう言われては断るわけにはいかない。
今日のレベリングの清算をするべく、俺たちは連れ立って冒険者ギルドへ歩き出した。
「最近のアイツ、注意散漫だと思うだろ?」
「ルーチェさん一人でサポート全部担当してるんだから、そんな言い方はよくないのでございますよ」
俺もウェンディも魔法を使わないから、回復、防御、支援の全部をルーチェさんに押し付けている節がある。
特にこの6日で基本ジョブのレベルも10まで伸びて、より強いモンスターと戦う機会は増えてきた。
ダメージを受ける機会も格段に増えてきたし、後衛の彼女が忙しくなってしまうのは何も不思議じゃない。
むしろ初心者でここまでミスが少ないんだから上出来だ。
「やっぱり、なんとかしないといけないよな」
もう一人くらい俺たちと同じくらいのレベルで、支援魔法を使える人を見つけたいところだ。
次のイベントまで日がないけど、こればかりは早い段階でケリを付けたい問題だ。
「それも解決しねぇといけねぇけどよ。アイツ、ここんところボーッとしてること多いだろ?」
言われてみれば、PK騒ぎの後からルーチェさんは遠くを見てることが多くなった気がする。
ダンジョンを行くときも話に加わらないで、俺とウェンディの背中をずっと眺めてたっけ。
「もしかして、具合悪いのか?」
リアルでフレンドらしいウェンディに聞くが、なぜか白い目で睨まれた。
「なんだよその目は」
「頭の方は大丈夫か馬鹿」
「せめてロボット付けろと言うに!」
真顔でよくもそんな台詞が言えるなお前!
「言っとくけどな、原因の一端はお前なんだから自覚持てっての」
「む、そうなのか」
と言う事は、やはりPKされたときの恐怖が残っているのだろう。
俺が結果的には敵を討ったとはいえ、ルーチェさんのようなナイーブな人には簡単に乗り越えられるトラウマじゃないんだ。
「俺なりに元気の出る方法を教えたんだけどな」
「そうかそりゃ安心してないないやちょっと待て。お前なにやらかしたんだ」
ウェンディが奇抜な新語でツッコミを入れながら、俺に詰め寄ってきた。
「やらかしたなんて人聞きの悪い。俺は元気が出るロボアニメを教えただけだぞ」
「ロボ、アニメ……?」
「おう。折角だから、ウェンディにも布教してやる」
俺はコホンとわざとらしく咳払いをして、目を上げた。
「ウェルカムトゥマーベラスアイアンヒーローワールッ!」
「ロボの話になると途端に早口になるよな、お前」
「まずは言っておくべきことがある。いいか、シリーズと枠組まれたからって最初から馬鹿正直に見る必要はない。このシリーズは一作一作ごとに作風ががらりと変わってくるから、俺が薦めたからと言って、何もこの作品から見なきゃいけない訳じゃないんだ。ウェンディのロボティクスセンサーに勝るものはないんだと言う事を、是非とも覚えておいて欲しい」
「ロボティクスセンサーとかツッコミてぇけど、まあいいや続けて」
「All Rightッ!さて今回俺が薦めるのは英雄シリーズ第5作品目『英雄剣豪パラディオン』!いわゆる「松坂英雄三部作」の一つなのは有名な話で聞いたことくらいあるはずだ」
「ねぇよ」
「前作『勝利の英雄グランファイア』がハード路線だったから、心機一転。原点の『英雄グレートダッシュ』への回帰を目指した作品だ。つい最近まで配信サイトでも唯一配信されていなかったが、今年の2月についに解禁されたんだ!」
ファンの先輩に交じって署名活動に奔走していた日々が脳裏をよぎる。
あの日々が無駄にならなかった瞬間は恥も外聞もなく泣き叫んでしまった。
「この作品の特徴は何と言っても、主人公たちの戦いが地球の存亡とか平和とかハードな展開とは無縁の伸び伸びとした冒険譚!だからこそ、意志を持った英雄ロボたちにもスポットが当たる話が多く入れられてコミカルな作風がより一層引き立つのさ!」
「……ロボットにスポット」
「英雄シリーズは今年放送が開始されたものも含めて、全部で9作あるんだが、この作品の英雄ロボことパラディはなんと妻子持ちなんだ!」
「ロボットが結婚……ああ、なるほど……」
「この作品のロボットは厳密にはロボットじゃなくて、人工生命体で子供だってできるんだ……ってウェンディ、どうした」
ウェンディが突然動きを止めた。
まだ魅力の1割も伝えていないというのに、一体どうしたんだ。
「ヒュージ、お前がロボット大好きなのはよぉく分かった。分かったうえで一言いわせろ」
「お、おう」
ウェンディの真剣な表情に気圧された瞬間。
「そりゃあアイツの性癖も余計に歪むんだよなってさァ!」
「ウルフェンッ!」
一説には時速70キロとも言われる狼の脚力を目指し、ウェンディの美脚が唸った。
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