第16話 氷楯鋼心 後編
気が付けば俺は妙に低い夜空を見上げていた。
さっきまで森林地帯でグラファイトと殴り合っていたはずなのに、俺はどうしてこんなところにいるんだろうか。
〈目が覚めましたか、【
ノイズ交じりの声に振り返るとそこにあったのは、
「……投影機?」
プラネタリウムで見かけるような、重圧なマシンが鎮座していた。
先端の球体から光が漏れて天井に星像を映していたから、空が近くにあるように感じたのか。
「もしかして、喋ったのは」
〈はい、私です〉
投影機がちかちか光を明滅させて喋りだした。
マギアナさんと言い、無機物が流暢にしゃべる世界だ。
実にファンタジーだ。
〈初めまして、私は〈
「……?ごめん、名前聞こえなかった」
〈『 』です〉
聞き直しても、肝心の情報が一切入ってこないのだが。
〈私の言語、伝わってますか?〉
「いや、伝わってるんだけど。もしかして名前が無いのか?」
〈最初に訪れた方が付けてくれるとGMは仰っていました〉
「それじゃあ、俺が最初なのか?」
〈いえ、ここに招いたのは貴方で4人目です〉
「最初の奴が無頓着だったんだな……」
しかし、アイギスと名の付くXジョブは俺を除いて既に3人いるのか。
俺はガードだけど、他の奴はどんなタイプなんだろう。
〈その間、ずっと「あの」とか「おい」とか呼ばれてました〉
「この話はここまでにしようか」
涙が出そうな辛い話題に、思わず話の流れをぶった切ってしまった。
とはいえ、名前がないとやりにくいしな……。
「よし、〈
〈わわわわわわわわかりましたたたたたたたたたた〉
めっちゃ嬉しそうに声震えてるけど大丈夫か、この管理AI。
「それじゃアズ。早速だけど、質問いいか?」
「ひぇひゃひひひひ……名前貰って呼ばれの……超嬉しい……胸キュンする……」
「しっかりしてくれよパーフェクトAI!」
眩しいくらいに点滅を繰り返すアズにツッコミを入れてしまった。
さては思春期あたりで成長止まってるな、こいつ。
「はい、質問しますよ質問!俺はデスペナルティになったのか?」
〈違います。互いのスキルが激突した瞬間にセットアップ作業が完了したので、意識のみを此方に転送させてもらいました〉
「それって、戻っても俺は死んでないか?」
〈ここでの1分はゲーム時間にして1秒にも満ちませんのでご安心ください〉
意識が戻ったら、PKされてたなんて格好悪いことにならないようで一安心だ。
「次、セットアップってのは?」
〈先ほどの戦闘中に条件が満たされたことで、【
「じゃあ、この空間に呼ばれたのはその解説イベントみたいなもんか」
〈はい。このスキルを使用することで、時間制限はありますが【
「本来の力とくるか。それを使ったら、俺はあいつに――グラファイトに勝てるのか?」
〈可能です〉
俺はどこか安心した。
出来るとは断言してくるよりも、不確定を含んだ物言いのほうが不思議と信じられる。
〈ただし、今のひゅ、ふひっ……ふへっ……ヒュージ、ふひひ、ヒュージ〉
頼むから、名前呼ぶだけで興奮しないで頂きたい。
〈ひゅひゅヒュージが≪
「ちょっと待ってくれ。俺が死ぬ可能性があるのかよ?」
〈一度目の使用の際にはパーソナルコードの認証などを行うため、安全な起動が見込めないのです。ただし認証に成功すれば、次使用からは問題なく行使できます〉
「問題の一回目の成功率ってのはいかほど?」
〈基本ジョブと後継ジョブそれぞれ60レベル超過で100%となりますので、今のヒュージならば……高く見積もって10%です〉
勿体ぶった言い方をするが、なんだ10%もあるじゃないか。
「それだけあれば十分だ。やり方を教えてくれ」
〈迷いがないのですか?〉
「確率なんてただの目安だぞ、アズ」
元からゼロに近い勝率なんだ。
降って湧いた勝利へのチャンスがあるなら、それに賭けるしかない。
「第一な、俺はシミュレーションゲームの超ロボットウォーズで確率なんて当てにならないのを痛いほど思い知ってるんだ」
〈魂のこもった言葉ですね〉
あのゲーム、3%あればこっちの攻撃を回避しやがるからな。
そのくせ、こっちの攻撃は99%でも容赦なく外れるし。
「それにさ。恥ずかしいけど結局のところ、」
人前では絶対に言えない本音がドーム状の天井に反響する。
「女の子を泣かせっぱなしにしてたら、男として情けないんだよ」
涙を流して謝罪をしていたルーチェさんをあのままにしていいわけがない。
純粋にゲームを楽しんでいるその心を少しでも癒してあげたいんだ。
〈仕方ありませんね〉
アズの声は呆れるような言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうだった。
〈此方でもサポートプログラムでフォローを行います。そうすれば成功率は40%まで上昇します〉
「サンキュー、アズ」
〈フヒッ……男性にお礼……始めて名前を呼ばれた相手に……ヘヒャッ〉
俺は本当にこいつに頼っていいのだろうか。
「とにかく!残りの60%は俺が勇気と気合と根性で20%ずつ補っとけば100%になるな」
〈その思考パターンは始めてです〉
「ロボオタなら黄金パターンだぜ」
ブイサインを返すと同時、俺の頭に使い方が出力される。
膨大な情報が流し込まれるが、それは最初から俺の知識の一部だったように違和感なく溶け込んでいく。
全てを受け取り、俺はアズを見上げて宣誓する。
「それじゃ、勝ってくる」
〈ご武運を〉
そして、俺の意識は森林地帯へ送り返された。
†
「ぐおぉ!?」
意識を取り戻すと同時に、グラファイトが吹き飛ばされた。
「テメェ、なんだよそりゃあッ!」
見覚えのある蒼色、身体を走るラインと同じ色をした粒子が俺の周囲を漂っていた。
頭に浮かんだ手順の通り、右手を突き出す。
光が掌中で結合し、実体となって握られる。
「〈グレイシャル・バレット〉って、これか」
名の通り、半透明の弾丸状ケースには蒼白色の液体が充填されている。
これが能力を一時的に開放するためのエネルギーになる、らしい。
しかし、これを使えば最悪デスペナルティになる。
その確率は決して低くない。
『ひぐっ……ごめんなさい、ヒュージさ、ごめんなさい……』
臆した俺の頭の中に聞こえたのは、ルーチェさんの悲哀の声。
今になってビビるなんて、どれだけ臆病なんだよ俺。
「……何も迷うことはないよな」
「何をブツブツと呟いてやがる!」
不意のことで警戒をしていたグラファイトが、鉄棍を構える。
「今更何をしようがテメェの負けは決まってんだよ!」
「何勝手に決めつけてるんだよ」
弾丸をイベントリに放り込むと、簡易ステータスに弾丸のシンボルが表示される。
いくぞ、アズ。
見ててくれ、ルーチェさん、ウェンディ。
「勝つって言っただろうが!」
確率などクソくらえ。
折れない心と負けない思いを重ねて、スタートアップワードを喚叫ぶ。
「グレイシャライズ!」
【リアライズ開始】
〈サポートプログラムを起動します〉
全身から噴出した白と蒼の光が、旋風を巻き起こす。
感じたことのない力が高揚感とそれ以上の激痛を伴って、全身を駆け巡る。
身体が末端から凍り付いていくような感覚に、意識まで白んでいきそうになる。
「確かに、これはデスペナルティになるってのも頷けるな……!」
けれど、俺は奴をぶちのめすと決意した。
だったら、この程度で気絶していられるか!
「根性見せろよヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥジィィィィィィィィィィィィィィイッ!」
獣のように迸る咆哮が白い機体を震わせる。
全身から蒼い燐光が噴き出す。
エネルギー流動ラインから溢れ出すその光は輝度を増やして月夜に広がり、森林地帯を蒼白に染め上げた。
【パーソナルコード認証完了】
【プレイヤー:ヒュージに対する最適化を実行】
【推奨レベル未満を確認、プレイヤーへの負荷軽減のため展開フェイズを段階化】
【フェイズ1展開】
右腕に冷気が渦巻き、楯が煌めきを取り込んで変化を起こした。
雪の結晶を彷彿とさせる蒼白の六角形を展開し、より肉厚に進化する。
【氷晶硬度基準値を突破】
【氷楯展開安定】
【リアライズ完了】
束縛していた手足の氷を吹き飛ばし、【
「俺、やったのか?」
〈はい、宣言通り確率を超えてスキルの認証が完了しました〉
周囲を漂う青白い光に呆けていると、アズから通信が入った。
〈≪
「俺だけ、か」
自分専用の言葉に男心が擽られる。
気を引き締めていなければ、口元が緩みそうだ。
光を放つ白い〈エクスマキナ〉について熱く語りたいが、今はそれよりも大切なことがある。
「改めて質問するぞ、アズ」
〈なんでしょうか?〉
「これで、俺がアイツに勝てる可能性があるんだよな?」
〈あります〉
「了解だッ」
変わらない答えに俺は大きく頷いた。
「待たせたな、センパイ」
氷壁を構え、グラファイトに猛る。
土壇場で可能性を手に入れるなんて出来過ぎている気もするが、後は俺がこの可能性をつかみ取るだけだ。
お前の腐った性根から始まったPKは、ここで最後にしてやる。
「――反撃開始だ」
†
「どんな隠し玉かと思ったらただの武装強化か!その程度で、俺をどうにかできると思ってんのかァ!」
グラファイトは一蹴すると、俺に突進を繰り出す。
〈初起動で不具合があるかもしれません。今回のみ、私がオペレーション致します〉
「サンキュー、アズ!」
合わせて走り出した俺たちは、相手の武器目掛けて真っ向から叩きつけ合う。
木々をへし折れそうな全力の一合を経て、奴の顔が驚愕に歪んだ。
「ビクとも、しねぇ!?」
二合、三合と回数を重ねても事実は変わらない。
渾身を込めたグラファイトでも、この氷の楯を貫けずにいた。
〈≪
アズのオペレーションをかき消す剣戟の音が響き渡り、グラファイトが棍棒をへし折らんばかりの膂力で握りしめた。
「≪動天衝≫!」
閃光を放出し、闘気を纏った棍が俺を破砕せんと迫る。
思わず下がりそうになった足に檄を入れる。
チャンスを掴むのなら、恐れずに前に進むしかない!
「《シールドラム》!」
蒼銀に変化したスキル光を飛び散らせた氷壁を振りかざし、真表より迎え撃つ。
「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
俺もグラファイトも、拮抗を破るべく得物に力を籠める。
激突し、行き場を失った二色の閃光が物理的な衝撃に転化し、周囲の地面を吹き飛ばしていく。
「だらっしゃぁッ!」
裂帛の気合と共に楯を深くねじ込み、均衡を突き崩す。
蒼氷がグラファイトを捉え、大きく跳ね飛ばした。
「ぐおおおおおおおおおおおおッ!?」
きりもみしながら背後の樹木をへし折り、巨体が地面に伏した。
受け流すだけが限界だったグラファイトのスキルを真っ向から受け止め、破るなんて。
しかもさっきまでは受け止めるたびに痺れるような痛みがあったけど、今はそれすら感じない。
〈≪
「≪
〈≪
「名前まで変わるなんて、オタク心をくすぐってくれるな」
アズがパレットを遠隔操作し、≪
マジックアイテムで上昇していたおよそ1000のVITは5000に迫るほどに大幅上昇。
パッシブスキル≪
それに付け加えてこの常時発動スキルには――、
「クソが!調子に乗るんじゃねぇぞ、ルーキー!」
修羅の形相に変わったグラファイトの攻撃を受け止めた瞬間、グラファイトの赤い鎧が光を放つ。
「もう一度凍り付きな!≪自縄自縛≫!」
「ぐっ!?」
脳天を殴りつけられるような衝撃が突き抜け、身体が勝手によろめいてしまう。
【バッドステータスの【氷結】の発生を確認しました。種族スキル≪
バッドステータスの反射スキルをもろに受け、種族スキルで打ち消せない【氷結】が発生する。
寄りにもよって発生個所は俺の右腕で、保持していた大楯ごと関節まで凍結してしまう。
「右腕、貰ったァ!」
機宜と獰猛に嗤い、グラファイトが棍棒を俺の右腕目掛けて打ち下ろした。
狙い済まされた奴の一撃は――
【スキル≪
「なに、がッ!?」
ひとりでに砕け散った結晶を煌めかせた右腕が先にグラファイトの顔面を打ち据え、阻んだ。
「悪いな、センパイ。どうやら【氷結】とかのバッドステータスも効かなくなったらしい」
≪
「氷を扱うモードである以上、自分がなっちゃ世話ないってもんか」
「一人でペラまわしてんじゃねぇぞ!」
鉄棍と氷楯が再び、打ち合わされる。
戦術など知らない。
駆け引きも投げ捨てた。
ただ、こいつだけには負けたくない。
俺の方が奴よりも強い。
子供じみた対抗心を燃やし、森林地帯を激走しながら切り結ぶ。
〈ヒュージ、タイムリミットが迫っています。180秒を切りました〉
画面上部のカウンターを打ち見する。
≪
現在の俺では最大300秒が限界であり、それ以上の起動はオーバーロードを引き起こし、周囲一帯を凍り付かせた上で俺本人はデスペナルティ送りにされるらしい。
〈インターバルを必要とするため、次使用は20時間後です〉
「安心しろ、こいつに次なんか与えない!」
〈では、カウントを開始します。残り789より〉
アズの声を激励として、力を振り絞る。
今勝たなきゃ意味がない。
不屈の闘志を血流として、蒼い残光を引いてグラファイトに食いついていく。
「テメェ、なんなんだ!チート使ってんのか!」
「あ、え?チート?」
紫電の尾を靡かせたグラファイトの言葉に、思わず呆気にとられてしまう。
チートって確か、インチキ、だっけ?
「〈エクスマキナ〉は魔法を使えねぇハズだろ!それなのにテメェは何で!」
横薙ぎの一撃を払い、がら空きの胴体へ潜り込む。
≪シールドラム≫の一撃が奴の顎を捉え、閉口させる。
「確かに、これはズルだよな」
勝てる瀬戸際で新スキルを手にされ、遥か格下に逆転される。
既に優位不利は逆転し、今となっては俺の楯を捌くので精一杯。
そりゃあグラファイトからしてみれば、文句の一つでも言いたくなる展開だ。
「だから、お前が俺をチートだとか言いたいなら勝手に言えばいい。俺もお前に勝ったなんて思えないからな。いくらでも泥をかぶってやるよ。けどな!」
反撃とばかりに振り下ろされた棍棒を弾き飛ばし、≪シールドラム≫のラッシュを繰り出しながら俺は吠える。
「俺は、この勝ちを譲るつもりはない!ルーチェさんがゲームを全力で楽しめるように!俺はッ!!今ッ!!!勝たなきゃならないんだよ!!!!」
アクセサリーを取り返して、それで全部丸く収まるわけじゃない。
PKされたトラウマは簡単に乗り越えられない。
それでも、俺はルーチェさんやウェンディと、始めて出来たフレンドと楽しく遊びたいんだ!
グラファイトに我武者羅に楯を殴りつけられ、図らずも俺たちは距離を取った。
「抜かせよ、雑魚が!お前らクズが俺に勝つなんてありえねぇ!あったらいけねぇんだよ!」
グラファイトはガラス瓶を取り出すと、かみ砕いた。
口回りが血だらけになるのも構わずに嚥下した瞬間、奴の右腕を覆っていた氷がはじけ飛んだ。
〈〈エリクサー〉の使用を確認しました〉
「バッドステータスの回復薬って名前じゃないよな」
〈はい。使用するとバッドステータス、HP、MPの最大値まで回復する【BW2】における万能薬です〉
格下には使わないと言い放っていたグラファイトがプライドを捨てて、それほどまでのアイテムを使用した。
俺を初心者と侮った恥辱は、全力で俺を下すことで雪ごうとしている。
だが、絶望は去来しない。
もう、勝負は決しているのだから。
「アズッ!」
〈計測結果に変化はありません。対象のLUKは0で固定されています〉
激昂していて、奴は気付いていない。
≪
そして、最後に楯を殴ってしまった為に自身のステータスを0にしてしまったことに。
あらゆる異常をたちどころに癒す全能の霊薬を持ってしても、治癒できないたった一つの悪目が俺の勝利を揺ぎ無いものとした。
〈ヒュージ、≪
アズの言葉が、ファイナルラウンドのゴングとなった。
先に動いたのは――グラファイト。
「≪爆砕螺旋槌≫!」
今まで以上の闘気を解き放ち、紫電の破壊螺旋を自慢の棍棒へと収束させる。
それだけで奴の周囲の木々は暴れ狂い、なぎ倒されていく。
グラファイトが最大の破壊力と謳ったのはなにも過大ではない。
≪シールドラム≫で迎え撃つのは到底不可能だろう。
〈ヒュージ、≪
「分かってる!」
脳裏に鮮明にイメージされた巨大な氷の結晶。
使用するための手法は同時に出力されていた。
「
気迫に呼応するように〈グレイシャル・バレット〉の全エネルギーが俺の制御を離れ、葉脈のように全身を走るラインから粒子を周囲に迸らせる。
氷を纏っていた楯から冷気が噴き出し、もとの状態より一回り大きく変身させる。
これが、邪心を氷砕する最後の一打。
「レッキングリフレイザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
二の太刀など考えない、渾身の一撃。
互いの必殺撃がぶつかり、俺の視界に雪片が舞い散る。
拮抗したのも一瞬、散らした紫電もろとも鉄棍が凍て付いた。
右腕を蝕んだ絶氷は瞬刻待たずに、奴の全身を覆いつくしていき――
「カス如きに俺が、」
謗りを残して、物言わぬ氷像と化した。
〈対象の完全凍結を確認しました。≪レッキングリフレイザー≫使用により、≪
フレームの隙間から白煙を排出し、楯を覆っていた氷が氷煙となって解ける。
ダメージすらない煙を浴びせられただけで、グラファイトだった氷塊は音もなく崩れ去った。
〈≪レッキングリフレイザー≫は対象を一瞬で冷却し、粉砕するスキルです。その成功率は対象のLUKが0に近付くほど確実となります〉
「じゃあLUKを見抜くアイテム探さないとな」
軽口を叩く俺目掛けて、氷片から光が飛び出した。
光に包まれるように、何かが浮かんでいる。
「ルーチェさんの、アクセサリー……」
まるで意志を持つように、俺の手に収まった。
細心の注意を払って確認してみるけど、傷がついてる様子はない。
「よかったぁ~~~!」
安心から遂に緊張が解けた。
グラファイトに勝った実感と疲れが一度に押し寄せてきて、大の字に倒れこんでしまった。
くそ、こんなことやったら折角のボディに傷が付いちまうのに全く動けない。
「アズ、ありがとうな。オペレーションしてくれて助かった」
〈でゅふぇへへへ……〉
締まりのない笑声が耳朶を擽る。
最後まで真面目モードを持たせてくれよ。
「≪
〈はい。ヒュージが可能性を超える姿を、ずっ………………と見ています〉
そう言い残して、頼もしいAIは去っていった。
最後の言葉で背筋が凍りそうになったけど、気のせいだよな。
「あ」
見上げた月の傍らに、テラ美さんの紙片が浮かんでる。
俺は取り戻したアクセサリーを空に向けた。
「なんとかなったよ、ルーチェさん」
だから、次に会ったときは笑っていて欲しいな。
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