第11話 皆殺せ!初イベント開始!

【BW2】攻略wiki雑談スレ124より抜粋



Name たかし 00:44:01

日曜になったな

イベントだぞ



Name たかし 00:44:35

初心者のたかしにおススメ教えろ



Name たかし 00:44:59

>初心者のたかしにおススメ教えろ

【エメリウム】か【サンディライト】

あそこアイテム回収イベだぞよかったな



Name たかし 00:45:14

【トゥークル】もいいぞ

〈HNM〉レイドだ



Name たかし 00:45:41

>【トゥークル】もいいぞ

>〈HNM〉レイドだ

PVPじゃないのいつぶりだ……?



Name たかし 00:45:56

>【エメリウム】か【サンディライト】

>あそこアイテム回収イベだぞよかったな

裏山

【ルーヴィング】と【アメジリア】はクランマッチだぞ



Name たかし 00:46:07

>【ルーヴィング】と【アメジリア】はクランマッチだぞ

ぼっちにつらいイベントきたな……



Name たかし 00:46:20

>ぼっちにつらいイベントきたな……

はい、たかし2人組作ってー



Name たかし 00:46:27

>はい、たかし2人組作ってー

やめろ

やめろ



Name たかし 00:46:27

>はい、たかし2人組作ってー

止めてくれたかし

その術は俺に効く



Name たかし 00:46:39

>【エメリウム】か【サンディライト】

>あそこアイテム回収イベだぞよかったな

悪いこと言わないからそこの二か所はやめとけ

PKクラン出てるの知らんのか



Name たかし 00:46:48

>PKクラン出てるの知らんのか

先週は【アメジリア】だったっけ

近いから【エメリウム】行くんじゃね?



Name たかし 00:47:28

>近いから【エメリウム】行くんじゃね?

それはどうかな

【サンディライト】はビギナーが多いからそっちでストレス発散させるかもしれない



Name たかし 00:47:44

>【サンディライト】はビギナーが多いからそっちでストレス発散させるかもしれない

こないでください

PKされるくらいならお隣の【ダイヤリンク】のイベに出るほうがましだわ



Name たかし 00:47:59

【ダイヤリンク】のイベってなに?



Name たかし 00:48:07

>【ダイヤリンク】のイベってなに?

PVP





イベント当日。

野暮用を済ませて、ルーチェさんたちとの待ち合わせをしている噴水広場に到着した俺は途方に暮れていた。

噴水広場には数えきれないキャラクターがたちがひしめき合って、ある種の熱気を渦巻かせている。

この中からルーチェさんたちを見つけるのは至難の業だ。


「弟君、こっちだよこっち!」

「ルルねぇ?」


声のほうを向くと、カフェのテラスからルルねぇが俺に手を振っていた。

その隣には、ルーチェさんとウェンディ。

俺は押し寄せる人の波を潜り抜け、テラス席へと向かう。


「遅かったね、弟君」

「ちょっとね。2人とも、ルルねぇと一緒に居たんだな」

「はい。待ち合わせの噴水前は特設ステージが出来ていたので……ぽっ」

「せっかく待つなら一緒に待とうぜってことになってな……ぽっ」

「ルルねぇ、俺が来るまでに何をしたんだ!」


2人揃って頬を染めて、ばつが悪そうにしてるんだけどっ。


「弟君のなんでもない話だよ♡」

「あれをなんでもないって言うには無理があるんじゃないかな、ルル」


ルルねぇの隣に座っている女性が俺を仰いだ。

【BW2】はファンタジーな世界観だから、現実ではありえない格好のキャラクターとすれ違うことがある。

だが、タカラヅカのステージから飛び出してきたんじゃないかと錯覚するド派手な赤い煌びやかなドレスはインパクトでは群を抜いている。


「はじめまして、ヒュージです。姉がいつもお世話になっております」

「クラン〈サニー・サイド・アップ〉のサブマスター、テラ美だよ。よろしく、弟クン」


右目に被さった茶髪を揺らし、握手を求めるテラ美さんに応える。


「『噂』の弟クンと会えるなんて今日はツイてるな。折角だから、フレンド登録もいいかい?」

「俺でよければ勿論です」

「フレンド登録もできるなんて今日は人生一番のラッキーデーだよ、テラ美ちゃんっ」


テラ美さんに促され、彼女の隣に座る。

『噂』とやらについて詳しく知りたいが、そこはあとで現実で家族会議を設けよう。


「これ、全部イベント参加者なんですよね?」


俺はテラス席から見える景色に目を移した。

もっと小ぢんまりした開幕式になると思っていたから、圧倒されてしまった。


「その通り。イベント前のいつもの光景さ。きっと【サンディライト】各地でも似たような風景が広がっているよ」

「でもここまで多いのは久しぶりだね。今回は単純なイベントだから、他の国からも来てるプレイヤーもいるんじゃないかな」

「他の国家のイベントにも参加していいのか?」

「イベント開始前に参加したい国の街にいれば参加できるんだよ」


ベテラン2人の説明に頷いていると、空中に巨大なスクリーンが突然現れる。

一瞬で静まり返った噴水広場へ、備え付けられたスピーカーがザザッとノイズを走らせた。


「始まるぜっ」


手すりに駆け寄るウェンディの背中を俺とルーチェさんが追いかける。

期待を隠し切れず、尻尾がぶんぶんと音を立てている。


「みんなーおまたせー。これより【サンディライト】イベントを始めるよー」

「「うおおおおおっ!」」

「……うぉぉぉ」


わぁっと会場が爆発したように歓声が上がり、待ってましたとプレイヤーはこぞって拳を振り上げる。

俺とウェンディも例外ではなく、ルーチェさんも恥ずかしそうにしながらも手を上げる。


「みんな元気だねー。それじゃあイベントの説明は、第七GMのマギアナがするからよーく聞いてねー」


スクリーン内の光球が手を振る様に揺らめいた。

聞き覚えのある声だとは思っていたけど、やっぱりマギアナさんだったのか。


「ルール説明するねー。【サンディライト】の国土全体にこんなメダルをばらまかせてもらったから、それをみんなで回収するんだよー」


銀貨のようなコインを光の触手でつまみ、アップで写す。

カメラに近すぎてぼやけているけど、大らかなマギアナさんが気付いた様子はない。


「フィールドに落ちてるものもあれば、モンスターからもドロップする設定になってるよー。だから、腕に自信のある人は討伐にも挑戦するといいかもしれないねー。でも、デスペナルティには要注意だよー」


そういえば、デスペナルティってなんなのか詳しく知らないな。

食い入るようにスクリーンを凝視する2人のフレンドの邪魔をするのはよくないし、あとで聞こう。


「制限時間はこの説明の2分後から明日の夜10時までー。回収したメダルは色んなアイテムと交換できるから、たっくさん集めようねー。諸君の健闘を期待する、なんちゃってー」


スクリーンからマギアナさんが消え、代わりにイベント開始までのカウントダウンが開始される。

波が引いていくように広場から人が去っていく。


「イベントの説明は簡潔なんですね。もっと注意事項とか色々教えてくれるのかと思いました」

「それくらいが分かりやすいんだよー。長く説明すると聞くだけでおなかいっぱいになっちゃうからねー」

「なるほど、バランスが大切っつーことか」

「いぐざくとりー」


マギアナさんの言葉にウェンディが納得した。

のほほんとしているけれど、流石はGM。

プレイヤーのことをよく理解していらっしゃる。


……いや待った。なんだこの違和感。


「はろはろー、ヒュージ君ー。一日ぶりかなー」

「マギアナさん!?なんでここに?」

「いやー見慣れた顔が見えたからねー。つい出てきちゃったーてへぺろー」


馴染み深い店に入る感覚で、お偉いさんが外に出てきていいのか?


「あーマギちゃんだー!お久ブックスー!」

「ルルちゃんお久ブックスカバー。テラ美ちゃんもお久ブックスー」

「いつぞや言っただろう。私はその奇抜な挨拶に染まるつもりはない、と」

「「ノリ悪いぞー。boo!」」


2人からの口撃を笑顔で受け流すテラ美さん。

その頬がいら立ちで引きつっているのを俺はあえて気付かないことにした。


「ルルねぇ、マギアナさんと知り合いなのか?」

「うん。クローズαからのながーい付き合いだよ」

「懐かしいなー。太陽消失バグを見つけたのルルちゃんだったねー」

「あったあった!マギちゃんが解決しようとして太陽にアクセスしたら超新星爆発引き起こして、サーバーひとつ駄目にしちゃってテスター全員デスペナ送りにしたのはいい思い出だよっ」


思い出にするには余りにもスケール感が違う。


「それよりヒュージ君、ずいぶん面白いことになってるよねー。びっくりしちゃったよー」


マギアナさんが俺の両手にすっぽりと収まる。

ひんやりして抱き心地が良い。


「私はGMだから個人に肩入れはしちゃダメなんだけど、【サンディライト】は〈エクスマキナ〉には不器用な国だから心配してたんだー」

「ありがとうございます。でも、俺はばっちり楽しんでますよ」

「うん、そうみたいだねー。安心したよー」


マギアナさんが俺のフレンドたちを見上げ、満足したと言葉にする代わりに発光した。

光が合図になったかのように、スクリーンのカウントがゼロになり、ブザーが響き渡る。


「さて、イベント開始だ。ルル、私たちもフィールドに出よう」

「そうだね。弟君、本当にお姉ちゃんと一緒じゃなくて大丈夫?」

「大丈夫だよ」


心配性なお姉ちゃんだ。

いくらゲーム内では生後間もないベイビーボーイでも、現実の俺はもうすぐ大学生なんだぞ。


「何かあったときのためのお金渡しておこうか?街にすぐに戻れるアイテム上げようか?それともお姉ちゃんがメダル集めて弟君に、」

「もういいから行ってくれよ!」

「やーめーてー。私はボールじゃないんだよー」


痛い!

ルーチェさんたちのダメな男を見るような白んだ視線が痛いんだけど!

俺がマギアナさんを振りかぶったところで、ルルねぇの首根っこをテラ美さんがひっつかんだ。


「ルルのことは此方で預かるから安心してほしい。では弟クン、ルーチェクン、ウェンディクン。互いにベストを尽くそう」

「おーとーうーとーくーんー……」


滂沱の涙を流しているルルねぇをぞんざいに引きずったテラ美さんの姿が街角に消える。

あと数秒遅かったら俺の剛腕が唸っていたところだ。


「ヒュージ。手見ろ、手」

「おっと。マギアナさん、すみません。丁度いい大きさだったので反射的に投げそうになりました」

「お前、自分に責任がないと思ってやがるな?」

「そっかー。丁度いいんじゃしょうがないなー」

「セーフなんですね……」


マギアナさんと笑いあう様を距離を取って眺めるルーチェさん。

GMだから、恐縮するのは無理もない。


「私はそろそろ戻るけど、その前にヒュージ君ー。君にいいこと教えてあげるよー」

「なんでしょう?」


ふわりと浮かび上がると、俺の耳元でささやいた。


「今回のイベントの景品にねー、〈エクスマキナ〉のパーツが用意されてるんだよー」

「――」


なん……だと!?


「1パーツメダル150個だから、全部集めるならかなり頑張らないと難しいけど、ぜひぜひ挑戦してみてねー」


ばいばいと手を振り、マギアナさんの姿が空に溶ける。

残されたのはルーチェさん、ウェンディ、そして……。


「2人とも」

「なんですかヒュージさ、ひぃっ!?」

「おいどうした。なんか邪神とか生み出しそうなオーラ出てんぞ」


マギアナさんは俺の心に火をくべてくれた。

心火は五体へと活力を与え、溢れんばかりのモチベーションへと転化する。

記念参加、なんて甘い考えの俺にはここで骨も残さず燃え尽きてもらう。


「……2人とも、ルルねぇに勝つっていつぞや俺は言ったけど、もっと明確に目標を立てよう」


一呼吸おいて静かに告げる。


「メダル持ちの抹殺だ」

「飛躍しすぎです!」

「根こそぎ奪う。奪われていなくても奪い取る。誰彼構わずメダル刈りだ」

「それ只の迷惑行為だからな?」

「私たちのレベルじゃ返り討ちになるのが目に浮かびます……」


勝てば官軍負ければ賊軍。

勝負とは非情なのだ。

そこに感情や欲望が入り込む余地などない。


「パーツ一式900枚パーツ一式900枚パーツ一式900枚パーツ一式900枚……」

「ちったぁ我欲を隠す努力しろよ」


俺を石突で小突いたウェンディが話を打ち切って、大正門へと足を向けた。


「そうだ、2人ともちょっと待ってくれ」

「まだなんかあんのか。ロボット談義ならパーでシバくぞ」

「……そうじゃないよ」

「どうして目を背けるんですか?」


咳払いで気分を一新。

俺はイベントリからアイテムを取り出し、2人の手に握らせた。


「これ、キーホルダーですか?」

「うん、2人に受け取ってほしい」

「へー……、なんだよけっこう綺麗じゃねぇか」


太陽の光を浴びて、鮮烈に色を変える花を模したアクセサリーにウェンディが驚嘆すると同時に気づいた。


「この光り方って、もしかして〈星遊びの洞穴〉のあの水晶か?」

「ああ。昨日ぶらついてるときに、アイテムの加工をしてくれる店を見つけてさ。折角だから頼んでおいた」

「もしかして、遅刻しそうになったのって、これを受け取るため……ですか?」


ルーチェさんに首肯する。

本来は〈エクスマキナ〉のパーツに加工するつもりだったけど、そもそも【サンディライト】では〈エクスマキナ〉関連の技術は壊滅的だから、あの発見は渡りに船だった。

どうせイベントリを圧迫するだけだったし、有効に使わせてもらった。


「しかしよぉ、何で花なんだ?」

「モデルにしたアルストロメリアの花言葉には友情ってのがあるんだぞ。知らないのか?」

「知らんっての。逆に男のお前がなんでそんなに詳しいんだよ?」

「ロボオタの一般教養だ」


古今東西、ロボット作品は色々な題材で発表される。

その中には花をモチーフにした作品だってあるのだから、詳しくないわけがない。


「ヒュージ、お前案外乙女かよ」

「ほう、いらないと宣いますか」


横合いに手を伸ばすも、容易く躱したウェンディはベルトに引っ掛けるようにして装着した。


「別に嫌じゃねぇよ。なぁ、ルーチェ」

「……」


ルーチェさんは両手で持ったアクセサリーを目の前に持ち上げていた。

軽く揺らして色彩を味わっている彼女は、ニコニコしている。


「ルーチェ」

「え、あ、うんっ」


しゃらん。

わき腹を小突かれて我に返ったルーチェさんはアクセサリーを揺らし、俺を見上げて口を開いた。


「初めてのダンジョンの思い出が私たちだけの形になって手にできるのは、とっても素敵です」

「あーいやさ。その通りなんだけど、そんなにヨイショするものじゃないよ」

「ありがとうございます、ヒュージさん。一生大切にします」

「……だから、大袈裟だって。ステータス上昇とか一切ないから、いいアイテムゲットしたら交換するべきだよ」


恥ずかしくなってついつい、つっけんどんな言葉遣いをしてしまった。

内心を見透かされたうえで、直球でお礼を言われるのは男子として恥ずかしい。


「そんなことありません。ヒュージさんの気持ち、とっても嬉しかったです。ですから、精一杯大事にします」


ルーチェさんは大切そうに胸に飾りを押し当てた。

な、なんか妙な空気だ。

もどかしいというか歯がゆいというか、オタクである俺はこの雰囲気に殺されそうだ。


「よかったなぁ、ヒュージ。ルーチェの好感度爆上がりだぜ?」

「邪推するな貴様!」

「異性からのプレゼントはルーチェの奴初めてだぜ?初めてだぜ、は・じ・め・て♡」

「やめろやめてやめてくださいやめないか!」

「わ、待って二人ともっ」


がはは、と豪快に笑って足早に走り去るウェンディの背中を追いかける。

メダルの数関係なく、まずは奴をしばき倒してやるっ!

そのあとで、メダルに群がる一族郎党皆殺して900枚回収してやるんだ!

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