第8話 回顧



 多くの馳走が卓上に並べられた。

 鶏の丸焼き、イモを切って蒸し焼きにした1皿、色々な野菜を煮込んだ1品に、皿に盛られた果物にパン。メインディッシュが鶏の丸焼きであるから、『いつもより、ほんの少しだけ豪勢に』と言ったクレアの言葉通りであった。

 リキと陽菜、それにクレアだけの晩餐であった。


「ささやかではありますが、どうぞ、召し上がってください」


 クレアが料理を取り分けて、リキと陽菜の前に皿を置いた。


「ありがとうございます」


と、陽菜は料理を頬張り、嚥下した。


「美味しいです! この煮込み料理」


 などと明るく食事を楽しんでいる様子であったが、やがて、


「今日は少し、疲れました」


と言って、先に休みます――と席を外した。

 後に残った2人はどちらからともなく、陽菜を案じて、口を開いた。


「やはり、気丈に振る舞われていたのでしょうか?」

「そうだろうな。でもまあ、無理もないがな。いきなり、見知らぬ世界に放り出されたんだ。そりゃあ、不安にもなるだろ。まだ、16歳の子供だ」


 リキはワインを飲みながら、答えた。手にしたグラスを眺め、


いずれは〝覚悟〟を決めにゃならんが……。女の子だしな」


と、陽菜を慮って、嘆息した。


「リキ様はどうでしたか?」

「うん? 俺?」


 クレアに自分の時はどうだったかを問われ、リキは少し宙を眺めた。


「そうだな……。と、言っても、俺は男だからな。女の子と比べたら、割と、度胸を決めていけ――なんて場面も多かったし。まあ、元々少し変わった子供だったんだよ。ちっちゃな頃から自然が好きで、人間なんて所詮、ちっぽけな存在だ――なんて思ってたからな。ある意味で、諦めが早かった――というか……」


と、自嘲気味に笑って見せた。それに――と言葉を続け、


「〝居合い〟なんて武道もやってたからな。ほとんどはスポーツ――運動みたいになっちまってるけど、本来なら人をあやめるだからね。の覚悟もある程度は、な」


 そう言って、ワインを1口飲み、


「だから、こっちに来てから、の時に覚悟を決めたよ。なし崩し的で、否応もなかったけどな」


と、ロランドが侵攻してきた時のことを指して、リキは苦笑した。


「そうですね。あの時は、事態が色々と急変しましたから」

「まあ、あの時とは違う。今は、そっとしておいてやろう。その内に、自分なりの答えを見つけるだろうさ」

「はい」

「ところで、美味いな、この鳥。塩加減がいい。酒がすすむ」

「お気に召したようで、何よりです」


 クレアが料理を褒められて、微笑んだ。2人の酒宴はその後も続いた。



 翌朝、といっても昼前だったが、国王の勅使が来て、『子爵の位に就ける。よって、取り急ぎ、参内するように』との国王陛下の命をリキに伝えた。


 正装し参内したリキは、国王の勅命により、この日、〝子爵〟となった。



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