第12話 剣に聞く?

「おおー」



 予想通りの展開なのだが、思わず声が出て、拍手までしてしまう。



 川べりの平らな場所にテントが三つ並んだ。


 豆粒ほどの大きさの三角すいがデネブの魔法で大人が寝られるぐらいの大きさに広がったのだ。



 俺の拍手にデネブが少しはにかみ、カーテンコールに返礼する演者のように恭しく膝を曲げて頭を垂れた。



 テンションが上がってテントの中に飛び込む。


 勢いよく寝そべると、砂地の上に敷いたのにジャリジャリ感がなく、適度に柔らかくてまた「おおー」と感嘆する。


 目を閉じると、じんわりとした全身の疲労感が意識を吸い取っていくようだった。



「ちょっとくつろいでてね。あたしはご飯つくるから」



 デネブの言葉に返事ができなかった。


 辛うじて返事がわりに手を挙げるが、俺は体にのしかかる眠りの重さに耐えきれず、そのまま意識を失った。



 どれぐらい時間が経っただろうか。


 テントの外からは何かが爆ぜる音が聞こえて、俺は目を覚まし反射的にガバッと身を起こす。


 魔族か?


 恐る恐るテントの外を覗くと、石で囲んだ即席のかまどに火が起きていて鍋が載っている。


 鍋の中をかき混ぜているのはデネブだった。


 鼻歌が聞こえてくる。



 俺はホッと胸を撫で下ろして、テントから出た。



「美味しそうなにおい」



 俺が声を掛けると、デネブは振り向いてニッと笑って見せた。


 鍋から白いスープを小皿に取り、味見をして「うん。上出来」と満足そうに頷く。



 デネブの背後には木製の椅子とテーブルがセッティングしてあり、その中央には大きなパンが皿に盛られていた。


 これらは全てデネブの雑嚢の中に入っていたのだろう。


 俺は改めて魔法の便利さに感動した。


 デネブ抜きの冒険など絶対に無理だ。


 逆に優れた魔法使いと一緒にいれば、快適な旅が約束されているようにも思える。



 椅子に座っているとデネブが具だくさんのシチューを出してくれた。


 きっとミルクも野菜も豆の大きさで雑嚢に入っているのだ。


 他に何が入っているのだろう。


 今から明日の食事が楽しみになってくる。



「アル。よく眠ってたね」


「うん。あっという間に寝落ちしてて」


「疲れたんだね。あたしの魔法の効力も吹き飛ばしちゃうぐらいに」



 食事の用意が整うと、それを見ていたかのようにアンタレスがテントから出てきた。



「何してたんだよ」


「愛しき剣の手入れだよ。お前もしっかりやった方がいいぞ。と言っても、アルはまだ相棒の姿すら拝めてないみたいだがな」



 確かにそうだ。


 あのアスカロンとか言う宝剣は結局まだ鞘から出せておらず、その抜き身がどんな様子か見ることができていない。



「きっと、さびがすごくて抜けないんだよ。あれはきっと使い物にならないな」



 鞘から抜けない理由が他に思いつかない。


 さびが原因だとすれば、いくら名高い剣であっても役に立たない。


 逆に今日使った名もない剣の方の手入れはしっかりやっておかないと、明日から困ることになるかもしれない。



「それは、どうかな。とにかく一度何とかして剣を抜いてみることだな」



 アンタレスが意味ありげに笑う。



「だから、どうやって抜くんだよ」


「それは、アスカロンに聞いてみないと分かんない」


「はぁ?意味分かんね」



 剣に聞くとはどういうことだ?

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