第8話 パーティー結成
「感じ悪いわぁ」
もう何度目だろう。
デネブがアンサーの頭を撫でながら、プンプンとシリウスたちを非難する。
アンサーを馬鹿にされたことが、すごく気に入らなかったみたいだ。
当のアンサーは先ほどのシャウカットとの衝突などすっかり忘れたようで、心地良さそうに目を細めて地面にうずくまり、デネブの為すがままにされている。
瞬一が「まあまあ」とデネブをなだめるのだが、先ほどから効果は全然ない。
「大体、陛下も陛下よ」
怒りの矛先をポラリス王に向け、「ねぇ、アルもそう思うでしょ?」と同意を求めてくる。
「え?何で?」
まだアルと呼ばれることになじめないのだが、「アルじゃない!」と否定するのも面倒で、俺は徐々に「アル」を受け容れつつある。
「だって、シリウスたちに頼まなくったって、あたしたちだけでヴェガ様を助け出せるじゃない。それをあたしたちを煽るようにシリウスなんかにも捜させるなんて」
「逆にさぁ、俺たち、王女捜しなんてやらなくても良くない?あの自信満々のシリウスとかいう人達が王女様を助けてくれるなら、それでいいじゃん」
我ながら名案だと思ったのだが、瞬一とデネブの視線は怖ろしく冷たかった。
「アル。一度、陛下に行くと言ったんだ。今さらやめるなんて通用すると思ってるのか。忠誠心はどこにやった?」
「そうよ、アル。陛下直々の命令を無視するなんて、死罪になりたいの?」
デネブは眉間に皺を寄せ、睨むように俺を見てくる。
「死罪?マジで?」
さすがにそれは困る。
こんな良く知らない世界でいきなり殺されてはたまらない。
「それに、もし、本当にあいつらに先を越されたらどうする?ヴェガ様とシリウスが結婚しちゃってもいいのかよ」
瞬一は心から心配そうに俺の顔を見る。
きっと俺に気遣ってくれているのだろう。
付き合っている女性が他の男と結婚するってことになったら、そりゃ辛いよな。
王女と結婚したいわけではないが、今は俺がヴェガ王女を助け出すことが一番自然な物事の運びなのだろう。
色々、言いたいことはあったが、とにかく今はそのヴェガ王女を捜さなくてはならないということらしい。
「じゃあ、行くか」
俺は瞬一に向かって呼びかけた。
愛する女を助けに、とか、この国に対する忠誠心、なんて全然ピンとこないが、死んでしまっては元の世界に戻れない。
仮にこれが夢の続きであるのなら、天才剣士として少し冒険してみるのも悪くはない。
「ちょっと、待った」
デネブが手を挙げて不機嫌そうに叫ぶ。
「まだ、あたしは準備ができてないわ」
「デネブもついてくるの?」
この不用意な言葉が余計にデネブを怒らせたようだ。
デネブは怒りに目を吊り上げて立ち上がった。
「当たり前じゃない!魔法使いが一人もいなかったら、旅なんてできるわけないでしょ!アンタレスと二人でなんて自殺行為よ」
「さすがにそれはデネブの言う通りだぞ、アル」
瞬一は呆れたように首をすくめた。
「俺たち剣士だけのパーティーなんて、三日ももたない」
そういうものなのだろうか。
確かにシリウスも黒いローブの女を連れていた。
あれはきっとデネブと同じ魔法使いなのだろう。
旅のパーティーに魔法使いは必須ということなのか。
「分かってないみたいねぇ」
デネブは腰に手を当てて、試すような目だ。
「食事はどうするの?」
「どうするって言われても……」
考えたこともない。
って言うか、王女を捜す旅に出ること自体が今決まったばかりだ。
「手を出して」
言われるままに俺は右手を広げて出した。
デネブはそこに茶色い豆のようなものを置いた。
そして、ペンダントの赤い宝石を握り、もう片方の手を豆に向かってかざした。
すると俺の右手の上の豆は一瞬にして巨大化し大きなパンに変わった。
「おおっ!すげえ」
俺は魔法の力に心底驚いた。
イリュージョンのように何か仕掛けがあるのかと思いたくなるが、自分の目の前の掌の上で起きたことに魔法以外の理由をつけて証明することは難しい。
「戦いながら旅をするんだから、動きが制約されるような大荷物は絶対に避けるべきよ。これは死活問題なんだからね。だからいろんなものを豆みたいなサイズに小さくすることができる、サイズ系の魔法が使える人がパーティーには少なくとも一人は必要なの。それに、怪我をしたり毒にやられたりしたとき回復系の魔法がないと苦労するのは目に見えてるでしょ。分かった?」
魔法の力をまざまざと見せつけられてはデネブの言うことに反論の余地はなく、俺はコクコクと頷くしかできない。
「だからと言ってデネブじゃないとダメってわけでもない。この国に魔法使いはいくらでもいるからな」
瞬一のきつい言葉に俺は一瞬ヒヤッとする。
そんなこと言ってデネブが怒らないだろうか。
「何よ、アンタレス。どうしてそういうこと言うの?」
案の定、デネブは怒った顔をアンタレスに近づけた。
「事実を言っただけだろ」
「そうかしら。陛下もおっしゃってたように、今はブリング国との緊張状態のために剣士も魔法使いも西の国境付近に集結してるから、あたしは貴重な存在よ。それに、アルとアンタレスがパーティーを組むのなら、気心の知れたあたしが仲間に入るのが自然じゃない」
「気心ねぇ。だから余計に心配になるんだけどな」
「どういう意味よ」
睨み合う瞬一とデネブ。
何か事情はありそうなのは分かったが、俺は、その殺伐とした雰囲気にいたたまれず、「まあまあ」と二人の間に割って入った。
「ここはデネブにお願いしようよ、瞬一。俺、デネブ以外に魔法使いなんて心当たりないしさ。瞬一が、おすすめの魔法使いがいるって言うのなら話は別だけど」
「アルがそう言うのなら構わないがな」
瞬一は腕を組んで納得のいっていない表情を俺に向けた。
「ところで、シュンイチって誰なんだ?」
「は?」
「俺の名前はアンタレス。シュンイチじゃない」
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