第39話 不気味な館
山の斜面に向かって走って行くと、徐々に町並みが寂しくなっていくのが分かった。
やはり、日当りが悪そうな土地はあまり好まれないのだろうか。
しかし、建物が存在しないわけではない。館と言って差し支えのない、そこそこ大きな建物も何軒か見受けられた。
だが、どれもきれいに手入れされていて、さっき俺がイメージしたものとは大分かけ離れている。
もちろん、これらは単なる勘だし、ちゃんとミクがいないか、走りながらも周囲を見渡している。
ただ、夜遅いこともあり、人通りはかなり少なくなってきて、ミクらしき人を見かけていないか確認することが困難になってきた。
アイゼンもソフィアも、まだこれといった情報は得られていないようだ。
夜明けを迎えたなら、一度館に戻ってみようか……通信機でそんな相談をしているときだった。
ふと、気になる建物を見つけた。
山の斜面の北側に隣接するように存在する、古ぼけた三階建ての大きな館。
あまり手入れされていないのか、庭は荒れていて、館の壁面には枯れたツタが絡みついている。
北向きの窓は全部閉め切られ、雨戸がない窓には黒っぽいカーテンがかけられている。
おぼろげな月明かりに不気味に立つ館。
ぞくん、と、なにかおぞましい気配を感じたにも関わらず、気がつくと門の前に立っていた。
格子状の鉄製の門扉にはなぜか鍵がかかっておらず、俺は吸い寄せられるようにその館の敷地内に入っていった。
しかしさすがに建物入り口の、高さ2メートルほどもある大きな扉には鍵がかかっているようだった。
その扉を激しく叩けば誰か出てくるかもしれないが、本当にヴェルサーガの館だとすると悪手だ。
かといって、アイゼンたちを呼び集めるほどの確証もない。
ちょっと気になる建物があったので調べてみる、と連絡しようとしたのだが、なぜか通信機がうまく繋がらなかった。
せめてもう少し様子を見てみたいと、建物の壁沿いに進み、一階の窓をのぞき込んでみたが、やはり黒いカーテンが掛かっているようで内部はよく分からない。
窓ガラスと言っても、現代日本の窓にはまっているような透明で薄いものではなく、ぼんやりとした緑色っぽい、あまり透き通っていなくて分厚そうなものだ。
真ん中から左右に開くタイプのもののようだ。結構大きさがあり、高さは1メートルぐらいだろうか。
試しに触れてみて、さらに押したり引いたりしてみたが、完全に固定されているようで、ビクともしない。
どうなっているのかと考えて、LEDライトであちこち照らしていると、カチャっという音とともに、扉の固定が外れたような感触があった。
やばい、誰か来たのか、と思ったが、しばらく待ってもそれ以上なにも起きないし、埒があかないので思い切って扉を引っ張ってみた。
ギイィー、ときしむような音がして、その扉は難なく開いた。
さっきまで完全固定されているようにピクリとも動かなかったのに、あっさり開いたことに少々戸惑った。
やや音が出たものの完全に開いたことは分かったので、聞き耳を立てるぐらいはかまわないか、と思ってその窓の前に立つと、先ほどと同様、まるで体が勝手に吸い込まれるように、窓から建物の内部へと侵入していた。
館の中は月の光も届かないため、当然真っ暗だ。
そこで、背負った荷物の中から例のウェアラブルカメラを手探りで取り出し、肩にセットする。
バッテリー節約のためにライトを弱めに点灯させ、後に何かの手がかりになるかもしれないため録画を開始する。
これで明かりの下で両手が使える状態になったのだが、正面しか照らせないために、右手には補助としてLEDフラッシュライトを持っている。
取り急ぎ見えればいいので、こちらも電池節約のために光量は抑え気味だ。
不法侵入であり誰かに見つかれば騒ぎになる可能性はあるが、ここは何かありそうだという勘と、それよりもミクを助けたいという気持ち、また、何かに引き寄せられるような妙な力の方が勝っていた。
その引き寄せられる力というのは、心地よいものではない。
まるで何かにおびき寄せられているような、得体のしれない感触だ。
冷や汗が出ていることが分かるが、足が勝手に動くような奇妙な感覚を覚えた。
……まさか、これは何かの魔法で操られているのか? 俺は本当におびき寄せられているのか?
そう考えると寒気がして、通信機を用いてアイゼンたちに連絡を取ろうとしたが、やはりなぜかうまく繋がらない。
いったん引き返すべきかとも思ったが、どうしても足が止まらなかった。
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