第30話 スイカと料理と遺跡調査

 異世界で撮影した動画の反響が凄すぎて、トィッターやミーチューブのメッセージを全部読んでいるととても時間がたりないので、タイトルや送信者で判別して、流し読みする術を体得した。


 スキルというほどではないけど、なかには今回のテレビ局からの連絡みたいに重要なものもあるので見落としがないようにしていこうと思う。


 そしてこの日も、シルヴィの容態が気になることもあって、昼過ぎからゲートを通ってアイゼンの屋敷を訪れた。

 すると、シルヴィは体調自体はかなり回復していたのだが、微熱が続いているのと、左足の痛み、腫れが残っているという。


 アイゼンが精密に調べた結果、どうやら骨の一部にヒビが入っているらしい。

 そんな状態でよく動き回っていたものだ……。


 魔法で瞬時に治す、というのは、できなくはないが、もし完全に折れていて、ずれて繋がったりしたら後々大変だから、様子を見ながら少しずつ治していく方がいいので、完治には数日かかる見込みだという。

 それでも、数日で治るのか……。


 彼女の足首には、包帯が幾重にも巻かれ、がっちり固定されていた。

 その内側には、魔法で硬化する粘土を使った、ギプスみたいなものが設置されているらしい。

 うーん、ちょっと痛々しいが、片足だけなのでなんとか歩けるし、不便はあるが日常生活にそれほど大きな支障はないという話に、安心した。


 この日は俺が持ち込んだスイカを食べてもらった。

 毎日、シュークリームやチーズケーキではちょっとカロリーが高すぎると思ったので、夏ということもあり、日本の果物を食べてもらいたいと思ったのだ。


 丸く、大きな玉に、ミクが包丁を入れて二つに割る。

 その内部が赤いことに、隣で手伝っていたソフィアはちょっと驚いていたが、これはそういうものだど説明すると、向こうの世界には珍しいものが多いんだな、と妙に感心していた。

 俺にとっては、この世界の遺跡なんかの方がよっぽど珍しいのだが。


 メイドのミクは俺の指示に従って、さらに包丁を入れていき、日本でよく食べられる三角形風にしてくれた。

 それを皿に載せて、食堂に運んで行く。


 ただ、その食べ方を、かぶりついて食べて、種は吹き出す、と言うと、引かれた。

 まあ、上流階級の屋敷では、そうなるだろうな……。

 そこで、スプーンかフォークで種を取って、少しずつすくって食べると良い、と言うと、今度は受け入れてくれた。


「……ふむ。これは見た目に反して美味じゃな。冷たくて、甘いのにさっぱりしておる。似たような果物はあるが、緑色でもっと酸味が強く、ここまで甘くない」


 アイゼンがそう言って褒めてくれる。やっぱり、見た目が赤いのがちょっと気になっていたようだ。 


「……変わった味だけど、おいしい……」


 ミクはたいてい一言しか言ってくれないが、それだけに言葉に重みがある。おいしい、と言ってくれると俺も嬉しい。


「……うん、これは確かに甘くて、なかなかいい。今まで食べたものは、食べすぎると少々胃もたれするような濃厚さがあったが、これならすっと食べられるな……」


 なるほど、エルフの彼女には、今までのケーキの類はちょっと重かったのか……。


「とっても美味しいですっ! ショウさんの住んでいる世界って、本当においしいものがいっぱいあるんですねっ!」


 足以外はかなり体調が戻ってきているシルヴィも笑顔だ。うん、彼女が喜んでくれるのが一番嬉しい。


 もちろん、この食事の様子も、許可を得て撮影している。

 エルフや獣人がスイカを食べて喜ぶ……ちょっとシュールな光景だ。


 コスプレだと思う人にとっては大したことない動画だろう。

 CGだと思っている人にとっては、わざわざ労力をかけてそんな動画を撮る意味が分からないかもしれない。

 これも動画投稿サイトに上げるとどんな反応が返ってくるのか楽しみだ。


 そしてその後、アイゼンに頼まれていたこともあり、ソフィアも一緒に例の遺跡探索をすることにした。


 あの魔法陣を発動させるには、祭壇に純白の光を当てる必要がある。

 その白い光を作り出す古代魔法は失われており、つまり発動条件を満たすには俺が持ち込んだLEDライトを利用する必要がある。


 本来であればそんなライトの一本ぐらい貸してあげて、好きなように調査してもらえばいいのだが、俺が元の世界に帰るとそのライトも一緒に帰ってきてしまうので、とてもやりづらい。

 それに俺も大学は夏休みで暇だし、また、遺跡の仕掛けが発動するのには興味があった。

 転移先の映像も撮影したかったので、互いの利益が一致し、調査を手伝うことになったのだ。


 屋敷の近くの遺跡、『ジャミルの門』という名前らしいが、どうやら複数の別の遺跡へ行くことができるらしい。

 その転移先の設定にも、白色の光が必要だという。


 祭壇の中にもいくつか光を当てるポイントがあり、照らしながら呪文を唱えることで転移先を切り替えられるらしい。

 ただ、前にシルヴィと訪れた場所以外に転移するのはかなり危険だという。

 すでに倒壊しているような遺跡に強制的に飛ばされると、命に係わる事故になるかもしれないのだ。


 そう聞かされると、シルヴィと一緒に転送された遺跡がほぼ原形をとどめていたのは、相当な幸運だったのかもしれない。


 そこまで分かったところで、この日の調査は終了。

 外に出るともうすでに夕刻になっており、三人で急いで館へと帰った。


 すでにミクが夕食を用意してくれており、この日は一緒に食べさせてもらった。

 パンとスープ、エビ(ザリガニ?)の塩ゆで、鶏肉の蒸し焼き(なぜかソフィアには出されていなかった)など、結構豪華。

 俺がゲストとして参加したための特別料理かもしれない。


 なかなかうまかったが、少々薄味で、もう少し濃い味付けの方が良かったかな……まあ、俺の舌が濃い味付けに慣れてしまっているだけなのだろうな。


 と、その席で、アイゼンが、


「薬草の一部が底をついてしまった。今夜、シルヴィの足にも使いたいと思っておったのを忘れておった、街に出て買いに行ってもらいたいのじゃが……」


 と言い出した。


 普段ならシルヴィが昼に買いに行く仕事なのだが、怪我をしているので、代わりにメイドのミクが行くこととなった。

 ミクも、この程度のお使いなら何度か行ったことがあるらしい。

 ただ、今までは昼間しか行ったことがないらしいのだが……。

 そして、なぜかアイゼンの計らいで、俺も一緒に行くように勧められた。


「夜のアナンの街は、なかなか幻想的な雰囲気に包まれておる。人出も多く、賑わっておる……ショウ殿にもぜひ、見ていただきたい」


 とアドバイスしてくれた……ひょっとして、薬草は俺を街に送り出すための口実なのかな?


 こうして、俺とミクの二人は、アイゼンが作り出した転移魔法陣により、リエージェ王国でも屈指の商業都市であるアナンへと転送されたのだった。

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