第19話 南国での、二人きりの二日目
その後も、鼻の良いシルヴィは、高い木の上に果物がなっているのを見つけてくれた。
バナナのようなものと、ヤシの実のようなもの。
徐々に気温も上がってきたし、湿気も多そうだし、日もほとんど真上から照り付けるし、やはりこの辺りは赤道に近い地域なのかもしれない……異世界なので、そもそも地球かどうかも怪しいのだが。
ともかく、その二つは俺が木登りをして取ってきた。
意外にも、シルヴィは木登りが苦手だった……狼だったら当然か。
ひょっとしたら毒があったらどうしよう、と思ったのだが、彼女曰く、
「食べてみれば分かりますから!」
とのことだった……そういうところは野生の血が残っているのか。
万一、毒があっても、彼女は賢者の弟子であり、基本魔法の「解毒」が使える。木登りはともかく、サバイバル能力はシルヴィの方が格段に高いと思った。
バナナのほうはまだ青く、あんまりおいしくないが、食べられることは食べられる。
ヤシの実の方は、フルーティーで若干の甘みがあり、そこそこおいしかった。
これで焼き魚とデザートが揃い、食に関しては満足できる。
とりあえず二人で持てるだけ持って、安全な遺跡内へと持ち込んだ。
これらの食材も、シルヴィがおいしそうにそれらを食べる様子も、すべてスマホで撮影済みだ。家に帰れたらネットにアップしよう……いつになるかわからないが。
午後には、森の奥を抜けた場所から下り坂になっている場所を見つけ、海岸に出ることができた。
砂浜になっており、打ち寄せる波にシルヴィは興奮。
しかしその海水を舐めて、その塩辛さに顔をしかめた……こんなところまで、俺は動画で撮影した。
なんか、本当に愛くるしいというか、心が癒されるというか……。
日差しが強いので、泳ぐことも考えたが、水着など持ってきておらず、裸にならなければならない。
シルヴィにそう言うと、
「それならば小川の方が塩水でないからいいです! 体も洗えますし!」
と拒否された……裸になるのはいいのかな?
海でも魚を捕りたかったが、砂浜では小魚しかいなかったので、それならもっと大きな川魚があるからそれでいい、ということになった。
そのかわり、シルヴィは大きな巻貝の貝殻を珍しそうに持ち帰った。
そうこうしているうちに日が傾き、そして夕焼けで海がオレンジ色に染まった。
上半身に白いシャツ、下半身は作業ズボン、狼耳、狼しっぽの獣人シルヴィが、波打ち際にて笑顔でこちらを見ている。背景は海に沈みかける美しい夕日だ。
その姿を写した一枚は、今までの人生の中でもベストショットと言えるぐらいの幻想的な出来栄えとなった。
これが彼女と二人っきりで南の島に旅行に来て撮影したものなら、どれほど良かっただろうか。
だが、現実は厳しい。
これまでの探索で分かったことは、この遺跡の周囲には、人間、亜人間の姿はもちろん、生活した痕跡すらなかったこと。人工物としては、ただ、ポツンとこの遺跡が存在するのみだ。
こうなると、ますますこの遺跡の存在意義がわからないのだが……。
日が沈み、夜になると雲がでてきて、あたりは暗闇に覆われた。
遺跡に戻り、扉を閉めて、二人で今後について話し合った。
とりあえず水と食料はなんとかなったので、しばらく生き延びることはできる。
しかし、どうやって帰ればいいのか、まるで打開策が思い浮かばない。
今頃、アイゼンやソフィア、ミクはどうしているだろうか……俺はともかく、シルヴィのことは心配しているだろうな……。
そして、翌日の行動について、シルヴィがかなり思い切った提案をしてきた。
彼女が一人で、海沿いにできるだけ遠くに行ってみる、というのだ。
これは、俺が
「海の側には、人が住む場所ができている可能性が高い」
と言ったせいなので、俺も一緒に行くといったのだが、
「ショウさんは遺跡に残って、その白い光でもう一度調査してみてくださいね!」
と言われてしまったのだ。
たぶん、シルヴィは自分だけで探した方が効率がいいと思っているんだろうな……戦闘力も、おそらくスタミナも、嗅覚も聴覚も彼女の方が段違いで上だ。
俺に遺跡の調査を依頼したのは、足手まといな俺に対する、彼女なりの気づかいなのだろう。
そんな彼女の提案に、俺は素直に乗ることにした。
こうして、南国での、二人きりの二日目の夜も、肩を寄せ合って眠りについたのだった。
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