第4話 イヌ耳
アイゼンの反応に、エルフのソフィアも反応し、
「……どうやら害はないようだな……」
と、自分に言い聞かせるようにつぶやいて剣を収め、近づいてきた。
「ソフィアよ、これを見てみよ。こんなことが、儂らの世界の人間にできると思うか? 少なくとも、この賢者と称えられる儂であってもできんぞ!」
アイゼンが興奮気味にそう話して、スマホ画面をソフィアにも見せた……って、この爺さん、賢者と呼ばれているのか?
「……これはっ!? 私が……私の姿が……なぜ……」
彼女も目を見開いて驚いている。
どうやら、この世界には、スマホはもちろん、写真すらないのかもしれない。
「これは……簡単に言えば、鏡に映った像を、そのまま残すような仕組みです。我々の世界で『スマホ』と言われる道具の……まあ、魔法みたいな機能の一つです」
「……それで、これに写し取られた者はどうなるのだ? 何か呪いがあるのか?」
ソフィアがちょっと怯えた、それでいながら睨みつけるような目線を送ってきた。
「いや、まさか。単純に写し取っただけ……そう、絵と同じです」
俺はそう言って、庭園の花や木、そしてその向こうに広がる森林の、美しい風景を写して二人に見せた。
「……なるほど、見たそのままの絵を一瞬で描いてくれる魔法の道具、というわけか……」
ソフィアが納得したようにそうつぶやき、俺もそれに対して肯定の返事をした。
「どうじゃ、ソフィアよ。この方が異世界から来たということは信じてもらえたかな?」
アイゼンが、なぜか得意げに笑みを浮かべる。
「……はい。確かに、それは間違いないようです。しかし……信用してよいのでしょうか?」
「ああ、それは間違いない。この儂が、神の化身・トゥエル様から直々にお告げを聞き、そして迎え入れたのじゃ」
そこまで自信をもって断言するアイゼンを見て、ようやく彼女も納得したようで、俺に向かって
「……先ほどは大変失礼しました」
と頭を下げてきた。
「いや、主を守るのは警護の仕事として当然のことですよ。俺は全然気にしてないから」
恐縮しながらそう答えると、彼女はほっとした表情を浮かべた。
と、そのとき。
「あれー、お客様ですかぁー!」
と、また別の女性の声が聞こえてきた。
その方向を見ると、廊下を歩いてきたのは、身長160センチぐらい、十代後半ぐらいの可愛らしい少女だった。
ただ、その身長には、頭の上部に生えた「三角形の耳」の高さも含まれる。
ニコニコと愛想よく微笑む彼女、ベージュのズボンに丈夫そうな同色の、ポケットがたくさんついたジャケットを着こなしている……まあ、分かりやすく言えば作業着だ。
しかし可愛い女の子が着ていると、それはそれでオシャレに見えるから不思議だ。
栗色の大きな瞳と、同じ色の背中まで伸びる長い髪。
そしてズボンの後側、腰の部分からは、かなり太いモフモフのしっぽが上向きに生えていて、左右に大きく元気に揺れている。
(獣人だ! ネコ……いや、犬か?)
獣人だと即座に理解した俺は、エルフに続いて亜人種に出会えたことに興奮した。
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