第17話 一年対スタメン!


時間が無いため、二セットマッチで行われることとなった試合。

今は作戦タイムの時間だ。


「自己紹介通りなら、服部はリベロ、吉野と大部はミドル、桜木はレフトで中村がオポジットであってるか?」


「名前もう覚えたのか……すげぇな」


「まぁこれから仲良くやる仲間だろ?すぐ覚えたわ」


と言いつつも、実は意外と覚えやすかった。服部は背が低いからポジションと見た目が一致する。それに反して吉野、大部はかなりでかかった。悠真よりちょい大きいのが大部で、それより大きいのが吉野。桜木は坊主なのですぐわかる。中村は俺と同じ身長だったので分かった。


「とりあえず、俺と桜木、吉野と大部、悠真と中村で対角でいいか?リベロはミドルの二人についてくれ」


「「「異議なし」」」


全員が理解して、文句もなさそうなので良さげだ。先輩曰く、未経験者がいないのは珍しい。だから話がすぐ通じるので楽だし、将来性有望なやつも多い。正直スタメンには負ける気はしない。


「前衛は、俺、大部、中村スタートでいいか?」


「僕は前と同じように君に付けばいいんだね?」


「あぁ。中村と俺が少し背が低いからそれをカバーしないといけないからな。俺と中村が並ぶとキツイ場面が出てくると思う」


「それについては同感だね。僕と紅島が並ぶと低くなるからね」


中村も理解し、他のチームメンバーも理解してそうだった。


「最後にもう一度聞くが、問題はないな?」


「「「あぁ、もちろん」」」


「じゃあ、スタメンチームに勝って一年全員でスタメンになろうぜ!」


「「「おう!」」」


久しぶりに熱くなるこの気持ち。チーム競技ならではだ。仲間と共に頑張ろうとし、気持ちが一致する感覚。

この感覚さえも忘れていたのだと気づく。……つくづく翠には感謝しかねぇな。


作戦会議も終わり、試合が始まった。サーブはスタメンの方からで始まる。


少し高めのゆったりとしたサーブを俺が取る、と同時に攻撃の準備をする。


「なっ!今日一緒に練習しただけだぞ?!」


先輩達が驚くのもわかる。何故なら、今俺たちがやっているのは同時多発攻撃シンクロと言って、色んなところから攻撃の準備に同タイミングではいる技だからだ。

本来これをやるにはセッターと選手のコンビ練習が必須だが、悠真に必要ない。あいつは、生まれ持った空間把握能力があるため、選手の位置が見なくてもだいたいわかる。

悠真がトスを上げたのはもちろん俺———ではなく、ライトの中村だった。


向こうからしたら俺だと思っただろう。しかし、俺は囮だ。俺が向こうの立場ならエースをマークするのは当然だからだ。だからこそ俺以外に上げることで向こうのブロックは散らばる。


中村のスパイクがコートの奥に突き刺さり、一点目はこちらの得点となった。



「おいお前ら!一年だからって油断をするな!下手したらあいつらは俺たちより強いぞ!」


「「「おう!!!」」」


向こうの空気が変わった。先程までは一年相手だから、という少し緩んでいた空気だったが今はピリッとした感じの公式戦特有の空気だ。


「このままスタートダッシュを決めるぞ。中村、頼んだ」


「僕に任せておけ」






「ドフリー貰い!」


コートの中心に俺の打ったスパイクが突き刺さる。これで二一点目。

一点目を取ってから、順調に試合が進み、現在では二一対十六。中村のサーブの番になると必ず二点以上は取れているためかなり有利と言える。


得点したのでローテーションをし、現在のサーバーは悠真。ただ、まだ本気を見せてはいない。


「ミスしたらごめんね?ちょっと攻めるね」


俺たちに声をかける悠真。どうやら本気を見せ始める雰囲気だ。佐藤さん、キュンキュンするに違いない。


「攻めまくれ!」


そう声をベンチからかける吉野。後衛なので今は服部と変わって休んでいる。


「じゃあ、お言葉どうりに……」


悠真の打ったサーブが少しいびつな軌道をして相手が弾き、得点となる。

ここまでは悠真はフローターサーブだったが、さっきあったのはジャンプフローターサーブ、通称ジャンフロというものでボールの変化がうりのサーブだ。中学の時よくサーブカット練習したけど、マジでとりずらかった。


悠真に合わせて相手が一歩前に出る。ジャンフロはオーバーで取るのが定石だからだ。だが、あいつは一味違う。


同じフォームからドライブサーブが繰り出され、またも相手は弾く。

悠真は二刀流なのだ。ジャンフロとさっき打ったハイブリットサーブを使い分ける二刀流。寸前までどちらが繰り出されるかわからないため、対処が非常に難しい。

久しぶりのはずなのに中学時代以上のサーブを繰り広げる悠真を見て、天才だと思いながら一セット目はそのまま二十五対十六で終わった。



時間が押してるので、二セット目にすぐに入ったが劣勢だった。

主に体力の面でミドルの大部と吉野がついていけなくなり、俺の対角である桜木も若干きつそうになってきたからだ。

十七対二十で負けている場面。ただまぁここまで俺は四、五本しか打っていない。ほぼ囮にされたからだ。


なんとか相手のサーブを服部が上にあげ、悠真がボールの下に入り込む。


「オープン!」


一言言えば悠真は俺へ最高のトスを上げてくれる。

綺麗な放物線を描く高めのトス。

それに合わせて助走をして、床をしっかり蹴りつけて跳ぶ。ブロックは二枚付いているが、若干隙間がある。その隙間の先には誰もいない、狙うならここだ。


ブロッカーの間を綺麗に通して打ったスパイクは、エンドライン上に突き刺さった。


「ナイストス、悠真。さぁみんな、こっからは俺が打っていくってことでいいか?」


「任せる……もう限界に近いんだ。久しぶりだから二セットはもたねぇ」


「同じく……もうきつい。任せるぞ……」



相手は余裕ではないだろうが俺たちよりきついということはない。

だからこそ、こっからは俺の出番。俺の真骨頂であるワンマンバレーの実力をまた見せる時が来たようだ。











「今日は楽しかったな!なんとかスタメンにも勝てたし、一年でレギュラー取れそうだな!」


あの後、俺が一人で決めきって、なんとか最後にサービスエースを出し二五対二十三で勝利を収めた。

俺と悠真以外は最後の一点を俺が決めた時に倒れこんでしまったが。


倒れた奴らを起こしてクールダウンをし、今は悠真と佐藤さんと帰っている。


「そうだね。僕も取れそうかな?先輩背が小さかったし僕の方が上手い自信はあるよ」


「二人ともかっこよかったです!陽輝くんは打つ時綺麗ですし、悠真君はトス?でしたっけ、陽輝くんに繋がる時がすごく上手でした!」


佐藤さん、君は悠真サーブを打って得点すると大興奮して飛び跳ねたりしていた気がするのだが……。


何やともあれ、部活一日目はうまくいったな。
















読んでいただきありがとうございます

今日だけ二話投稿します。二十一時にまた投稿します。

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