いっぱい食べる君が好き

鮭B

第1話

 眼がギョロリ。緑色のカマキリが交尾をする最中、メスがオスを食べる。鋭い棘のついたカマを大きく振り下ろして、動けないように抑えつける。頭に思い切り噛み付くむしゃ、ぷちっ。オスを食べたメスは、そうしなかったメスの2倍の卵を産むらしい。オスを食べることで、重要なアミノ酸を摂取するからだ。

 私が小学生の頃その光景を見た時、妙に心惹かれたのを覚えている。ムシャムシャムシャ。そんな効果音が付きそうなくらい必死に小さな口で噛み付いている。そんな姿に静かな興奮が沸き立つ。ガブガブむしゃむしゃガブガブむしゃむしゃガブガブむしゃむしゃばりばり

 私は昼休みが終わるまでそれをじっと見つめていた。

 ガブガブむしゃむしゃばりばり、オスよりも一回り以上大きいメスが、ガブリ。ガブリ。と食べる。今でもその光景をビデオで撮った映像みたいに鮮明に思い出せる。

 生命の神秘?命の貴さ?違う。そこにあるのは弱肉強食だ。私はその圧倒的なねじ伏せ方に、ただ食べられるしかない弱者に、興奮していた。



 「本日未明、某所で男性のバラバラ遺体が見つかりました。現在男性の身元は捜査中で、警察による...」

ピ。

テレビの電源を落とすと、私は四方バランスよく布が余るようにテーブルクロスをひいたテーブルの上に丸い皿を静かに置いた。さらにナイフを皿の右のナイフレストに、フォークを左のフォークレストに置く。

 シチューを盛った皿からは、ふんわりと香りが漂い。まだ熱されてから時間が経たないことを示すように湯気が絶え間なくたっていた。

 私はできるだけ音の立たないよう椅子を引き、座る。手を合わせる。

 「いただきます。」

 音の全くない部屋で声はやわらかく響いた。

 ナイフとフォークを手に取り、大きめにカットした人参をフォークで刺し、口に入れる。咀嚼。じんわりと甘い味が広がる。次に黒い肉をフォークで抑え、ナイフで切る。ぎ。ぎ。抵抗はない。

 そして口に入れる。咀嚼。豚肉ような少し苦味のあるような味がする。1日ゆっくり煮込んで置いたおかげで肉は歯を使わずともほぐれ、じわりと味が広がる。良い出来。

 私は皿に乗った分を食べ切ると、ナプキンで口を拭った。

 「ごちそうさまでした。」

 再度手を合わせる。皿とナイフ、フォークをシンクに入れ、軽く洗う。そうして私はテレビをつける。

 テレビではまだ先ほど同じ事件について取り上げられていた。どうやら事件は連続的に起こっているらしいが、犯人の捜査については難航しているようだ。

 事件について興味をなくした私はテレビを消し、寝る前のストレッチを始めた。

 

 

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