時間を遡ること数時間まえ

 

世界初の宇宙学園の先生に抜擢ばってきされた

キャロンド・ブラウンは入学式を前に、

先生一人一人にあてがわれた自室で緊張きんちょうしていた。


何を間違まちがったのか自分は地球のはるか上空、

深淵しんえんの宇宙の中にいる。


およそ人が立てる一番の高みに来ている。


キャロンドにはその事実が、

なかなか現実として認識にんしきできないでいた。


思い返せば自分より優秀な先生は数多あまたとおり、

なぜ自分が選ばれたのかまったくわからなかった。


もしかしたら自分には、自分の知らない所で、

自分とうり二つの優秀な双子がおり、

自分は間違ってえらばれたんじゃないかといった

虚構きょこうさえ浮かんできて、

それが真実のように思えてくる。


実際じっさい自分を選んでくれた人には失礼な話だが、

キャロンドにはこんな自分を選ぶなんて、

その者は気が狂ってたとしか思えなかった。


キャロンドは格別、

自分に劣等感れっとうかんを覚える性格ではなかったが、

今は狂気としか言えないこの人事に、

はげしく動揺どうようし劣等感を抱いている。


じょうちょうした自分をはずかしめるため、

人類の代表の舞台を用意したような、

気さえしてくる。


自分が天才だと思い込んだ猿を舞台にあげ、

笑うため。


世界中の人々があざけり笑う姿が、

何度も頭の中にリピートしていた。


キャロンドはそんな妄想を振り払うため、

室内に設置されたシャワーをびることにした。


格別熱い湯を浴び心をリセットしよう。


ガラスりでカプセル型の、

ポッドのような物の中に入り、

ドアを閉めパネルの温度を設定すると、

すぐに浴室よくしつは全方位からシャワーが噴出ふんしゅつし、

湯気のスモークの中に埋没まいぼつした。


全てをおおい隠すスモークの中に埋没まいぼつしながら、

キャロンドは、心が少し楽になるのを感じた。


肌を焼く熱めのお湯に、

心身が溶かされ流れて行くような、

苦悩が溶け出し流れて行くような、

それでいて同時に胎内たいないに包まれているような、

心地よさを感じていた。


 

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