第8話 家族と4人で庭ティータイム
今日は天気も陽気も良い為、午後のティータイムは庭でしようという事になったようである。
その事を伝えに来てくれたメイドと一緒に、ポーラとセシリアは庭へと向かった。
すると既に来ていた家族達が出迎えてくれる。
「やぁセシリー。遅かったね」
「キリルお兄さま!マリーお姉さま!今日は来れたの?」
手招きをする二人の姿を発見し、セシリアは弾んだ声で二人の元へ寄っていった。
「今日は2人共、さっきの授業迄で『おべんきょう』は全て終わりだったの」
嬉しそうにそう答えたマリーシアは、続いて「セシリーは今日、何をしていたの?」と尋ねてくれる。
その問いに「待ってました」と言わんばかりに、セシリアは初の館内ツアーの話をしたのだった。
一通り話し終えると、マリーシアは恥ずかしさに顔を赤くしながら言う。
「まさか練習している所を見られていたなんて……」
おそらくはダンスの稽古をセシリアが覗いたという件についての感想だろう。
「全く気付いていなかった」と何故か項垂れてしまった彼女に、今日はセシリアがいつもの皆を真似して姉の頭を優しく撫でてあげた。
セシリアのその手に、最初ほんの少しだけ驚いた様な顔をした。
しかしすぐにくすぐったい気持ちでセシリアの手を享受する。
「厨房かぁ。初めて食材を生で見た時の事とか、僕は全く覚えてないなぁ」
懐かしむようにそう言ったのは、キリルだ。
「そもそも僕が初めて厨房に行ったのっていつだったっけ?」
テーブルの上のサンドイッチに手を伸ばしながらそう言った所で、マリーシアが呆れ交じりに起動した。
「それはキリルお兄様が完成された食事にしか興味が無いからでしょう?私、知ってるんですから。お兄様がたまに厨房に、食べ物を貰いに行っている事」
妹からつまみ食いを告発されて、キリルは悪戯がバレた時の様な顔をした。
しかしそれも一時の事、彼にとっては大したダメージにはならなかったようだ。
それどころか、何かを企む様なニヤリ顔で笑いながらこう言ってのける。
「セシリー、厨房の人達とは仲良くしとけ。仲良くなっておけば、たまにつまみ食いに行った時に残り物だけじゃなくって何か作ってくれたりするからな」
「こらお兄様、そんな堂々とセシリーに変な事を教えてはいけませんっ!」
「あ、そっか。悪い悪い。じゃぁ、セシリー。やるときはこっそりとやるんだぞ」
悪知恵を吹き込んでくる兄に、セシリアは頭にクエスチョンマークを浮かべながら、とりあえずと素直に頷いておく。
一方マリーシアは「そういう意味ではありませんっ」とツッコミと叱りの間の様な声色で答えた。
しかし残念ながらセシリアは、テンポの速い話についていけていなかった。
だから兄と姉が何について議題にしているのかは勿論、兄が教えてくれたのが俗に言う『悪い事』に当たる等という事にも、全く気付いていない。
そんな3人のやり取りを、クレアリンゼはただ黙って聞いていた。
これは只の言葉遊びの一種であり、兄妹の可愛い交流である。
だからその話の内容に親が首を突っ込む必要は無い。
ただし一つだけ、聞き逃せなかった部分に対してだけは釘を刺す事を忘れなかった。
「厨房の方々のお仕事の邪魔にならない程度にならつまみ食いをするのは構わないけれど、つまみ食いしすぎて食事を残すようでは怒らないといけなくなりますからね」
「「「はーい」」」
彼女の言葉に、兄妹達は揃って素直な返事を返した。
それはそれは、とても良い返事だった。
その返事に満足したクレアリンゼは「じゃぁもうこの話は終わり」と言わんばかりに、早々に
思考を今日のお菓子・プディングへと向ける。
そんな母の様子を眺めていたマリーシアだったが、突然「あ、そうだ!」と声を上げながら両の掌を口元の前でパチンッと合わせた。
「今日は私、ティータイムが終わったらもう何も予定が無いの。お兄様もそうでしょ?だから久しぶりに3人で遊びましょ!!」
マリーシアの弾んだ声が、この後の予定を提案する。
「僕はいいよ。セシリーは?」
優し気な同意の声が乗り、促す様な視線がセシリアへと向けられた。
「わたしも! わたしもお兄さまとお姉さまと遊ぶ!!」
2人に答えて右手の挙手でしきりに主張する元気一杯な末っ子の了承も得て、三人はこの後の予定を計画し始める。
それは相変わらず仲の良い3人の姿であり、実に微笑ましい光景だった。
母も、その周りに控える使用人達もがその様子に癒されながら、和やかなその時間を過ごしていったのだった。
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