ヒロインにふさわしいのは、あたし。~モブ共、あたしを引き立てなさいっ!~

涼詩路サトル

偉大なる百花様のプロローグ

第1話 戦場勇者のパーティ

「これより、魔王討伐の祝儀を取り行う」


 野太く、貫禄のある声が広間に響き渡る。貫禄のあるのは当然、この国――いえ、この国以外は滅びているから、この世界といっても過言ではない……つまるところ、この世界の王様なのだ。

 あたし――いいえ、あたしを含めた6人は、一世界の王様の前に達成感と充実感を胸に立ち並んでいた。あたし達はこの祝儀の主役だ。ちなみに、各々は普段着慣れない正装に身を包んでいる。


「そなた達、勇者パーティ一行は、滅びゆく運命にあったはずのこの世界を、魔王討伐の偉業を成し遂げ、阻止した。国民を代表して、お礼申し上げる。……ぁりがとう」


 ふっさふさの白髪を生やした王様は、玉座に腰かけたまま、礼を言う。ちなみに、「ぁりがとう」のとこらへんは、鼻声だった。あたしは、あたしよりも一回りも二回りも年上のご老体が泣いているところを初めてみた。それだけ、この世界はピンチだったのだ。改めて、再認識してしまう。

 それに、なんだかこそばゆくて、現実味が無い。どうしてかというと、あたしはただの街娘だったからだ。ひょんなことから、魔王を踏破してしまうような、勇者のパーティに入ってしまったわけだけど。まさか、ここまで強いパーティだったとは思わなかった……。


 すん、と洟を鳴らしてから、多くの人の上に立つ、王の顔へと切り替わる。


「これより、魔王を踏破したパーティメンバーを挙げよう。まず――心鏡透子こころかがみとうこ


「はい」


 長い深緑の髪を靡かせ、ミステリアスな雰囲気を漂わせている糸目の女が、落ち着いた返事をする。ドレスから覗く胸元は、ここにいる誰よりも大きかったが、けして太っているわけではなく、高めの身長と細身で、美しいプロポーションをしていた。現に、広間内にいる重鎮達の殆どの視線を集めている。

 透子は、マインドコントロール系の魔法が得意で、モンスターを傀儡にして魔王軍にいくつもの隙をつくりあげることで、不利な状況をいくつも覆した。そのおかげで、魔王軍はいつだって全力を出せやしなかった。


「カーミリア・ナハツェーラ・サード」


「うむっ!」


 元気よく挨拶をしたのは、このパーティで一番小さい女の子。金髪ツインテールをはためかせて、無邪気な笑顔を振りまく彼女は、吸血鬼だ。チャームポイントは、常人よりもちょっとだけ発達した犬歯と、真紅の瞳。カーミリアこと、カーちゃんは人外の種族の中でも三強と呼ばれる程に強い種族の一員で、このパーティにとって大きな戦力だったのは言うまでもない。


小鳥遊たかなしアシュリー」


「……はい」


 眠たげな顔で返事を返すのは、パーティ屈指の補助要員。アシュリーは、ポーションの生成スキルが高い。味方用のバフ付きポーションや、相手へのデバフ付与のポーションを作成し、個々人の能力を最大限引き上げていた。ちなみに、ショートボブに纏められた栗色の髪の毛だが、所どころぴょんぴょんしているのは、寝ぐせではなく、くせっ毛だからだ。


佐藤百花さとうももか


「はい」


 あたしだ。あたしはえーと……、肩にかかるかかからないくらいのセミロングで、胸も平均、身長も平均。髪は目立たない、黒で……THE清純!といった感じだ(面白味のない女、とも言うかもしれない)。ごく平凡な田舎の出身で、このパーティの一員なこと以外は普通だ。少しくらい、あたしも他人に負けない魅力とか特殊能力なんかを授かりたかった。なんて不平等な世界だ。あっと、このパーティでは皆の衣服の洗濯とか、料理……家事全般をやってました。でもでも、こういうの結婚する時とかにすごい役立つし、別に……。


小鳥遊たかなしロイ」


「うっす」


 あたしが一人で勝手に落ち込んでいる間に、王様相手にも不遜な態度を示すのは、小鳥遊アシュリーの実の弟だったりする。姉のアシュリーと違って、くせっ毛の無い栗毛色の髪は、普通の男の子よりかはちょっとだけ長め。オシャレ意識が高く、髪には動きがついていて、セットしていることは一目瞭然だ。ちなみにロイは、あたしと一緒で特別秀でた能力があったりするわけでない平凡人だ。だけど、あたしの方が料理は上手だし、家事の手際も良い。逆説的に言えば、あたしより下手ということだ。つまり、あたしは家事のスペシャリスト。


「最後に……、リーダー戦場勇者いくさばゆうしゃ


「はい」


 きりっとした声を挙げるのは、魔王を討伐した我らがリーダー、戦場勇者。低身長で若干おかっぱ気味な黒髪——ひとことで言い表すと、ショタ系だ。誰よりも強い圧倒的な力と剣技を持ち、無自覚に保有するカリスマ性は、パーティの指揮を執るに相応しい。名前の通り、勇者になるために産まれてきたかのような存在だ。


「勇者……」

「勇者さん……」

「ゆうくん……」


 あまりのかっこよさに、つい同時に声を漏らした、あたし、透子、アシュリーは察しの通り、この戦場勇者いくさばゆうしゃという男に惚れていた。絶体絶命の場面で、颯爽と救われたから、それが何よりも大きかった。ただ、戦力的に貢献度の低いあたしは、きっとこの中の誰よりも恋愛戦争に勝てるポテンシャルが低いだろう。あたしは少なくとも、そう感じることが多かった。


 ……だけど、それも今日までの話だ。



 


 


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