第129話 来たれ召喚勇者!アガレスの作戦
六龍王との互角に近い戦いの中で、アガレスが戦力の不足を呟く。
「六龍王と戦闘は互角に行えているが、俺たちは徐々にエナジィを消耗している。このままでは勝機はない。最後の色彩が必要だ。しかしそれは消えたまま」
六龍王の猛攻をイージスの盾で防いでいるダゴンが、皆に聞く。
「何かいい方法はないのか。このおっさんを倒す武器とか魔法とか」
アスタルトが縮地で六龍王の後方へ回り込み、連続攻撃を繰り出しながら、皆に聞こえるよう大きな声で答える。
「やはりもう一人の色彩、勇者の力が必要だ。蒼い目の勇者アナトが」
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エールの診療所……
エール王国の診療所でアナトはベッドに横たわっていた。
動かないアナトに電流のような光が輝き、胸に小さな光り輝く球体が出現した。
大魔王が戦場に書き込んだ魔法陣は、ラシャプから取り戻す。
悲しみを湛えた闇に捕らわれたアナトの心を。
取り戻された小さな輝きは、アナトの胸で小さく瞬き始める。
微かで不規則な瞬きは、生まれたばかりの命が生きる為に呼吸をするように見えた。光球の瞬きがゆっくりと安定したものになった時、アナトが目を開けた。
エールの神子、親友、ずっとアナトに付き添っていたイルが語りかける。
「アナト、ここがどこか分かる?」
うなずくアナト。彼女の頬を大粒の涙が流れる。気丈夫な性格だがまだ幼い勇者。今は悲しみを素直に表面に出している。
「うん。あたし、お父さんを貶めた闇の王が許せなかった。操り人形になっているのがどうしても許せなかった。そして古の六頭竜のカオスドラゴンの力に捕らわれた。気が付いたら、あたしは闇の中にいた。そこにはわたしと同じく、闇に捕らわれ、苦しくて寂しくて泣いている人達がたくさんいたの」
イルに背中を支えられながら、身体を起こしたアナトは言葉を続ける。
「わたし毎日泣いていた。周りの人も泣いていた。その中にお父さんがいたの。あたしは言った。生きていても苦しいことばかり。でも死んでも哀しい……って」
アナトの瞳から涙が溢れる。
「お父さんは何も言わずに豪快に笑ったの。闇の中で笑う人などいなかった。何万年も忘れていたような笑顔を見て思ったの。生きたいよ。ダゴンやバアル、アガレスとアスタルトと……みんなと一緒に戦い、そして笑いたいと。お父さんはまた笑ったわ。そして指差した。僅かな光が指す方向を。そしてあたしは帰ってきたの。仲間のいる光が指した場所に」
イルは目を閉じて呟いた。
「大魔王ツクヨミ、そしてアナトのお父さん……ありがとう。大切な仲間を救ってくれて」
目を開けたイルは宣言する。
「私もとっても嬉しい……蒼い目の勇者の復活。アナト捕まって! 飛ぶよ。みんなの元に戦場に!」
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戦い続ける五色の色彩。
アイネ、バアル、ダゴン、アスタルト、アガレス。
アイネは直接的には戦いには参加せず、距離を取って回復魔法と強化と弱体魔法を唱える。
五人の認識は同じで、このままではじり貧に陥る、どうしても闇の王を倒した勇者アナトが必要だと。
だが、アナトは闇の王との戦いでエナジィを失い、今はエール神殿で意識がない状態であった。
「くっそ! 決定的なダメージを与えられない。倒しても倒しても回復しやがる、次から次と。絶望を感じさせてくれる……この戦いは死にゲーなのかよ!」
バアルが思わず愚痴る。
「まるでソウルのシリーズように、やっと自分が強くなった、と思った次に絶望を感じさせやがる」
その時、いきなりダゴンが反応する「来る! 俺の流星が」と嬉しそうに叫ぶ。
それは空中から突然だった。
戦場に輝きが下りて、ダゴンが予見した青い流星。そして麗しい戦士が姿を現す。
イルの移動魔法から、時間を短縮する為に、空中で飛び降りて、戦場に立った蒼い瞳の勇者アナトだった。
嬉しそうに、懐かしそうに皆を見渡すアナトが、全員に喝を入れる。
「まだ、もたもたしてんの!? バアル、ダゴン、アスタルト、アガレス、男の子でしょう!?」
男の子と呼ばれた四人は顔見合わせて頷いた。
「ふん、一応、召喚勇者のアナトを待っていたんだい!」
バアルの男の子らしい返事に、ニコリと笑ったアナトは戦いを始める。
「それじゃ……この物語の主人公のあたしが登場したということで……行くよ! みんな!」
アナトの言葉に頷き空へ飛びあがり、バアルが翠の龍の大剣に、エンチャントして魔法剣が六龍王へ振り込まれた。
「アナト復帰記念! よっしゃ! これでどうだ……え?」
何度も古代神の武器インフェルノソードと打ち合った、バアルの剣は砕け散った。
「神の剣と打ち合いすぎだな。限界らしいな緑の龍……ふん!」
剣が壊れた無防備なバアルに、容赦なく六龍王の剣が振り降ろされる。
「そうは行かないぜ!」
ダゴンがイージスの盾で受けたがエナジィを消耗し、衝撃を受けきれなくなっていた。余波で態勢を崩し後ろに転がるダゴン。
最強パーティ、アナトを加えて完成した時、アイネが「今さながらですが」と前置きを言ってから、となりで腕組みをして、戦闘を眺める大魔王に聞いた。
「ツクヨミはこれからの戦いは、男どもに任せると言ってましたね。アナトが混ざってますが……ウフフ」
ふー、とため息をついた大魔王はアイネに答えた。
「忘れてたわ……まあ、アナトはまだ16歳、まだまだ女とは言えないわね。小娘なら参加可能としましょう」
すべてのパーティメンバーがそろった、アガレスが決意を込める。
「これで作戦を決行できる……アスタルト、ダゴン後は頼むぞ。バアルにアナト。二人のエナジィを合わせろ!」
全員が頷いたのを見てアガレスは驚くべき行動をとった。
「……俺をくらえ真の力を見せろ! 暗黒の呪われた剣よ!」
アガレスは力を込めて、自分の胸をソウルイータで貫いた。
その場に膝をつくアガレスは、自分の胸からソウルイータを引き抜くとバアルに渡した。
「これを持てバアル……俺のエナジィを喰らった最高の剣だ。これならばやれる、アイネの魔法を思い出せ……闇と光は一体なんだ」
立ち尽くすバアル。
「そんな! どうして……」
「騒ぐな……きっと、おまえ達ならやれる……打ち込め究極の剣を!」
アガレスが目をつぶり、その場に倒れこむ。
人の魂を喰らう大剣ソウルイータは、アガレスの漆黒のエナジィを吸って、猛り狂っていた。
ウォオオオオン。雄叫びをあげるソウルイータを掴んだまま、その恐ろしさと、アガレスの覚悟に、動けないバアル。その肩を大きく優しい掌が掴んで獣王がバアルを励ました。
「バアル。アガレスに勝負の行方を見せてやれ!」
「うん」うなずき、バアルは目を閉じてエナジィに集中した。
自分のエナジィを最大に高めて、ソウルイータの制御を試みる。暴れるソウルイータの先端から、徐々に黒きエナジィが消えていく。そして新しい色が発現する。それは漆黒と白銀のMarble模様。
ソウルイータが新しい色にコーティングされていく。
バアルが目を開いた時ソウルイータは、漆黒に白銀が乗った、妖しく美しく輝く大剣になっていた。アガレスのエナジィとバアルの魔法剣。その二つによりソウルイータは真の力を解放した。
バアル、アナト、アスタルト、ダゴン、最後の戦いを仕掛ける為に六龍王へ向かう。
アイネが大地に倒れるアガレスを支えて微かに笑った。
「本当にあなたはいつも強引ですね。マスティマ女王も困ってますよ」
目を開けるアガレスはアイネを見た。
「ふっ、そうか……そこにいるのかマスティマ。また怒られそうだな。あの頃が懐かしいな」
アガレスは男らしいが、懐かしそうに笑みを見せた。
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