第106話 闇からの脱出
闇の王がアナトが起こした漆黒の超新星に、飲み込まれ消えた後、アナトは剣を大地に落とし膝をつき横に倒れた。
見開かれたその瞳からは、エナジィと心が完全に消えていた。
アナトの身体はただ細かく、痙攣を繰り返すだけだった。
「アナト! 大丈夫か?」
ダゴンが懸命に走り、アナトを胸に抱きかかえた。
「声が聞こえた……父を殺める悲しい声が」
ダゴンが声の方を見ると、死んだ筈のバアルが立ち上がっていた。
背に巨大な竜のエナジィがゆらりと映った。バアルの緑の鎧が姿を変えていく。
鋭い鱗の破片のように表皮が割れ始め、新たに結合を繰り返す。
二メートルもの大きさになったバアルは、翠色の翼を携えた。
「竜の第三段階!? 究極のドラゴンウォーリア。そうか……バアルも六頭龍の力を継いだ。だから、窮地を越えた時に新たな力を得たのか」
ダゴンが呟き、超新星とバアルが起こす、暴風の中でアナトをしっかり抱きしめながら、究極の戦士を再び見た。
「究極のドラゴンウォーリアとして、バアルはアナトの心の声で目覚めた……父親を殺めた底のない悲しみを受けて」
ダゴンに頷くバアルが、ドラゴンウォーリアとしての自信に溢れた言葉を放つ。
「ここは俺がやる、ダゴン、アーシラト。アナトは頼む」
ドラゴンウォーリアになったバアルが大きな翼を広げ飛び立つ。
「バアルその姿は……いったい何をしようとしているの?」
イルがドラゴンウォーリアになったバアルに聞いた。
「俺は赤竜王を倒す力を得た、この力を使い闇の国を出る。今から天井の封印のレンズを破壊する、アナトのエナジィとともに」
バアルは答え、空中へ飛び上がった、高く、天井を目指して。
アナトが起こした巨大な重力は、漆黒の球体を造り出す。
音を立てて、闇の国の黒き紫の空を、石の砂を吸い込み始める。
上昇して天井にはめられている、巨大なレンズにバアルが必殺の掛け声。
『最大必殺! ドラゴンブレイク!』
龍のパワーがアナトのエナジィに重なり、巨大なレンズに吸いこまれた。
「ダゴン! こっちよ!」
イルが叫ぶ。二人の勇者の最大パワーが合わさり、天空のレンズが粉々に砕けた、同時に闇の王の間の天井が崩れ落ちる。
地上の光が見えた。
動かないアナトを抱えたダゴンが側に来たのを確認して、イルが魔法を唱えた。
『光よ我らを守りたまえ ラ・ライトボール』
五人を囲う、光の球体が出現した。球体は揺れながら上昇を始める。
立ち込めていた闇の空間の全てが、アナトの造り出したブラックホールに吸いこまれ、空間すら歪ませている。
完全に消滅しようとする闇の王の神殿から、五人を乗せた光の球体が、地上に向って登っていく。
アナトの超重力が造り出した漆黒の重力は破壊を続け、砕けた岩の破片、たくさんの土砂が舞い上がり続けていた。
「あれは? あの光はなに? え! 闇の王!?」
破壊される神殿の中で、輝く光が見えた、イルはその正体を一瞬で見破った。それはイルの特殊能力であるナチュラル。闇の国から解放された今、直感的に物事を一瞬で理解する、人間でいえば勘、ただしその精度と内容は比較にならない力。
ナチュラルを発動しているイルにだけ聞こえた闇の王ラシャプの声。
「フフ、この状況で僕を認識できるなんて。さすが白き龍だね。そうだよ、この僕を閉じ込める結界を破壊するには、二人の勇者の限界点の力が必要だったのさ。まあ、アナトのパワーには本気で驚いたけどね。おっと、今は僕のことなんて、かまっている暇なんかないだろう? さあ、これで僕は自由を得た。ラグナロクを起こせる」
「ラグナロク!?」イルは仲間に闇の王を示そうとするが、闇の王の光はすぐに上昇を始めて、消えてしまう。
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地上へ昇った五人の前に、巨大な赤き龍の影が悠然と立つ。
「遅刻だな、アーシラト」
そこには大地にブルトガングを突き刺し、赤龍が腕を組み立っていた。
その周りには傷ついた戦士たち、アスタルト、アガレス、グレンがひざを折る。
地上に戻ったイル達を見て、振り返り赤龍王が獣王に聞いた。
「どうするアスタルト? もう約束の時間になったらしいぞ」
よろめきながら立ち上がった、アスタルトは血を吐きながら、フッと笑った。
「まだオレ達との遊びが終わって無いぞ、赤き王」
「なんて酷い。待ってて!」
イルは血だらけのアスタルトに駈けよって、大きな獅子の身体に回復魔法を唱え始めた。
「お嬢ちゃん、有難う。だが悪いがオレより、黒き騎士を助けてやってくれないか?」
身体を気遣うイルに、優しい瞳で獣王が頼んだ。
獣王の言葉にイルは頷き、アガレスの側へと走る。
「ふん、邪魔だ」
それを見た赤き王がブルトガングを、小柄なイルに向け振り上げ落とした。
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