第93話 大魔王現る
……大陸の南の島の外れ。風の吹く大地。
巻かれるような強く風が吹く地上。
周りには木々か生えていない草原で、中央が盛り上がった地形。
丘の中心には巨大なレンズが太陽の光を吸収していた。
ここは魔王が封印されている島、美しい自然とは裏腹のおぞましき魔力が、近づいた者のエナジィを奪っていく。
エナジィが吸われている事など、意にもかいさない、見晴らしが良い中央で走る風を見ている巨躯。
二メートルを越える巨大な男は、真紅のドラゴンメイルで武装し、肩よりも長い輝く金色の髪と同じ色の立派な髭を貯えていた。
見るだけで圧倒される気迫と存在感。
龍の剣ブルトガングを持つこの赤龍王は、六頭竜の王でレベリオン(反抗)のリーダーだった。
ゴース公国を制覇した最強の竜である赤龍王は、誰かを待っているようだった。
突然、赤龍王の頭上に火の玉が出現し、徐々に大きくなりながら向かってきた。
眉毛一つ動かさずに、巨大な火の玉の落下を横目に見る赤龍王。
数百メートル先で爆発が起こり、噴煙が上がる中で出来たばかりのクレーターの中心で立ち上がった者。
レザーのボンテージで二つにセパレートされたブラトップとフレアミニスカート。
色はブラック。細くて雪のように真っ白な腕で一頭分の肉を持ち上げている。
両脚は血管が浮き出るような白く艶やかな素足に厚底のショートのヒールで、意外とムッチリ。
背中には小悪魔のかわいい羽が生えている……真っ黒の。
「あ~~あ、コストコ行こうとしたのに間違ったわ」
呟いたのはバアルとアーシラトの、現代での母親だった、現大魔王ツクヨミだった。
「ふん、大魔王も親ばかとみえる。わざわざ、こんな場所に間違えるわけないだろう」
赤龍王の突っ込みに考え込む大魔王。
「まあね……ただ、親子の情とか、現代の気持ちはこの世界では、どんどん薄れてきている気がする。ただ……」
一度言葉を止めた大魔王に赤龍王が尋ねる。
「ただ、なんだ? やっぱり「現代での人生」が良かったとでもいうのか?」
ううん、首を振った大魔王。
「ただね、どっかで気持ちはつながっているのかと。現代では家族というパーティーを組んではいたけど、バアルは高校生になってから会話が少なくなったし、姉のアーシラトは部屋に引きこもりで、私が部屋に入ってブラインドを開けて、日を入れたりすると、本気の怒りを目に宿らせていたわ」
赤龍王は大魔王の現代の立場を推しはかっているようだ。
「転生前はやはり不幸せだったのだな。だが、おまえは何も望まなかったから、この世界で最強の力を得たのだろう? 不思議だな家族や現代を、恨みもしなかったわけではあるまい。おまえの話と表情から察するとな」
大魔王は素直に頷き赤龍王を見つめた。
「あなたは私は反対みたいね。前の世界を天の神に破壊され、貴方たち六頭龍の神さえ否定する偽りの歴史に怒り、世界最強を願った……願いは叶ったかな?」
苦笑いを浮かべる赤龍王、
「無欲な者と、心の底から望んだ者が、等しく力を持つとはな。しかも俺の場合は、何度も死線を超える必要があった」
大魔王は現代を懐かしむように赤龍王に話す。
「あれば煩いけど、無いと寂しい……親子なんてテレビみたいなものかしら。意識するようになったらおしまいね」
鼻で笑う赤龍王は大魔王の意図を確かめる。
「それで。世間話をするために、ここまで来たわけではあるまい……俺と戦う気になったか。この世界の覇権をかけて」
首を回して肩こりをほごす大魔王。
「あなたのような生き方は肩がこるわね。別に私が最強で世界を統べるなんて、まったく興味がないわ。ただ、仲間たちとくだらない話や面白い遊びをしたいだけよ」
大魔王の言葉に炎の大剣ブルトガングを握る赤龍王。
「ほう、息子を遊び道具として送り込み、俺と遊ぼうというのか……いいだろう」
肩を回して戦いの準備を始めた、赤龍王の行動を諫めた大魔王。
「違うわよ。まあ、戦いは楽しいけどね。ママ友で「攻撃が範囲で二回」て人がいたけど、私の場合は「自分以外は99999ダメージ突破」だから仲間も一緒に消えちゃうの」
一歩前に出て、戦いの意思を見せた赤龍王が尋ねる。
「恐ろしいものだな。たわごと事が嘘じゃないと、おまえのエナジィが教えてくれる。ここなら、俺ごと消えても島一つなくなるだけだけか?」
今度は背伸びをしていた大魔王が首をかしげる。
「うん? 違うよ。さっき言ったように、楽しくないことはしたくないの。それにあなたと戦うのはバアルよ」
もう一歩進んだ赤龍王は現状を大魔王伝えた。
「残念ながらバアルは死んだぞ。アーシラトからの連絡だ……アーシラトがかかわっていることは秘密だったかな? クク」
バアルが死んだことに、驚きを見せない大魔王は空を見上げてバアルの死は必然と言った。
「バアルは翠の龍の力を得たの。龍の化身はあなたもそうでしょう赤龍王。どうやってあなたはその力を得たの?」
大魔王に質問されて意図を探る赤龍王。
「とうぜん死線をくぐって……クク、なるほどバアルが本物なら俺に近づくというわけか」
巨大な魔力を放出する大魔王は呟いた。
「「おれが一番」とか、女にとっては興味が薄いわ。でも男の子には大事な事なんでしょう? ならば戦って。赤龍王を倒すのは我が息子バアルよ」
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