第91話 戦士として

 バアルが24体の分身のうち、一体のアインを注視する。

「おまえの攻撃を受けて見て分かった。やはり違いがある!」

 風切りのレイピアを構えるバアルに笑うアイン。

「何が分かったというんだ? 違い? クク、それが分かったからどうなるんだ?」

 バアルは四つに分身して、一体のアインへ向うバアル。

「さっきほどおまえに受けた攻撃は、24のうち一体だけが攻撃力が違っていた! いくぜ!」

 まずは手前の分身に突っ込むバアル、一人目を切り倒した時に、残りの23体が向かってくる。

『風流龍速』

 バアルは自分に翠の龍の力で速度アップをかける。

 23体のアインの攻撃をかわしながら、一体ずつ確実に倒していくバアル。

 アインの24の分身を、四人のバアルを攻撃していき、バアルは実体のアインにたどり着く。

「こいつがアインの実体だ!」

 バアルが素早く攻撃の構えに映る。

「本体が分かれば、幾つ分身しようと……刻める!」

『流風敵刻』

 鋭い旋風が刃先から巻き起こり、バアルの剣がバラバラにアインを切り裂いた。


「こんどこそ……やったでしょ? ねえ? なんで黙っているのよ」

 勝利を尋ねるイルをアイネとアナトが硬い表情を見せた。


「バアルは本質的な事を分かっていません。素質は有るのですが、まだこの世界の常識が、体に染みついていないようですね」

 アイネの嘆きの言葉と同時に、またも地上に響きわたる鉄のアインの声。

「これだから最近の若いもんは……攻撃の力が一体だけ強かったから実体だと思ったのか? そんなのは簡単なフェイクだ。話を聞いていたか坊主?」


「なぜ!? 手応えは有った。この手でおまえを切り裂いたばかりなのに!」

 剣を握りしめ驚くバアルの背後に回った、23体のアイン。

「バアルとか言ったか……24体から同じエナジィを感じるなら、全部実体として相手すればいい、それだけの事だ……やっぱり死んだな……おまえ」


 再び現れたアインが笑い、先ほどの攻撃でエナジィを消耗して動けないバアルを、24のアインが囲む。

「勇者よ、最後の時だ……死ね」

 24の剣が振り下ろされる「ウグォ」口から大量の血を吐き、その場に崩れ落ちるバアル。


「俺を倒して嬉しかったのか? 闘気を抜いて戦いで背後を取らせるなど……甘すぎるな。この闇の世界では分身も実体として存在させられるのだ。24のすべてが俺自身なんだよ」

 アインにの言葉にバアルが苦しい息で呟く。

「24体……その全てが実体だと……!?」

 アインは呆れた顔で説明した。

「学ばないやつだな。ここはエナジィの世界で、現世での常識に、捕らわれてはいけない。まあいい。久しぶりに楽しかったぞ」


 24人のアインが剣を振り上げた。


「待って!」

 思わずバアルの所へ飛びだすイル、それを両腕で制して、首を振るアーシラト。

「ダメよ……これは戦いなの」

「なによ! なんで命なんか賭ける必要が有るのよ!」

 両手を振り下ろして不満を見せるイルにダゴンが叫ぶ。

「男の勝負だ邪魔するな! 黙って見てろ!」


「そう、じゃ女ならいいのね?」

 アナトが揚げ足をとると、珍しく真面目な顔のダゴン。

「アナトおまえなら、今この状況で助けられて嬉しいか? 仲間たちに感謝するか? 戦士として勇者としてどうなんだ?」

 答えに詰まるアナトとアイネにダゴンが続ける。


「チームワークは必要だし結構な事だが、一人だけ劣る者がいる事により、著しくパーティの力は削がれる。個々の並ぶべき者がない力があって、初めて巨大な力に立ち向かえる」

 バアルは戦士である、そう言われ、黙るしかないアナトとアイネを見て、苛つくイルがダゴンに向いた。

「そんな理屈知らない。わたしは助けるよ。騎士道なんて知らない!」


 イルはアシラートの腕を振りほどいてバアルの所へ向かう。

 アインの分身がイルに集まり取り囲む。


「白き巫女よ。これは真剣勝負なのだ。戦士らしく死なせてやれ」

 アインの分身に囲まれて、動けなくなったイルはバアルに視線走らせる。

 膝をついて、立ち上がろうとするバアルは、すでに大量のエナジィが失われていた。

「大丈夫……心配するなイル」

 バアルはイルを見て微かに笑った。

「良い覚悟だ」

 24のアインの止めの剣がバアルに振り下ろされた。

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