二人の勇者は最強を目指す

第83話 勇者との出会い

 アーシラトの傷よりイルの精神的疲労がかなり重い。

 肩を寄せ合って座ると、見える暗い景色としれぞれの心。

 影が弱い心を蝕む。


 突然、それまで黙っていたイルが大声を出した。

「なんでアイネは教えてくれないの! 魔法だって武器の扱いもそう。足手まといと思うなら、少しずつでも、わたしに戦いを教えてよ!」

 イルをチラリと見たアイネ。


「教えるっていっても……私は独学ですよ。二、三度魔法書見ただけ。剣は確かに師匠は剣聖、この世界で最高の剣士です、まだ会った事はないですが、召喚勇者の父上です。でも彼も私もめんどくさいのが嫌いなので、時々、殺気ありのマジで打ち合いはしましたけど、ちゃんとした訓練なんてしていないです」


 イルが立ちあがりヒステリックに叫んだ。

「そうよね! あなたは天才だものね! 私とは違うものね!」


 アーシラトがイルの手を取って座らせる。

「だめよ。体力を回復しなきゃ。それに後ろ向きな感情を持てば、この国レイスに取り込まれてしまう」

 もういや、首を振りながらしゃがみ込むイル。


 アーシラトがイルを慰めながら話をする。

「力への意思。世界を再び変える者。イルは存在能力でアイネさえ越えるかもね」

 アーシラトの言葉に、力無く首を振るイル。

「そんな事あるわけない。足手まといのわたしなんか」

 イルの結ってある髪を撫でながら、アーシラトが優しくあやす。

「あなたは凄い力を持っている。それを私は知っている」


 その時「静かにと」ジェスチャーをするバアル。

 こちらに近づいてくる、何者かの気配をバアルが捉えた。

 バアルとアイネは、イルとアーシラトを守るよう前に出て剣に手を掛けた。


「ちょっと、ちょっとそこ! うるさいわよ!」


 現れたのは十六才くらいの少女。

 肩まである黒髪。細身の体。美しく整った顔立ち。

 紅を基調にし、刺繍が施されたコタルディを着ている。


 導かれてバアルと父親を探す、勇者アナトが不機嫌そうに立っていた。

「あのね。こ・こ・は・おのぼりさんが観光気分で来るところじゃないの。わかる?」

 ジロリと四人を見渡したアナト。


「特にそこの二人。若い女の子がこんなところに来ちゃダメでしょう?……これだから世間知らずの女子は困る。早く家に帰りなさい!」


 ここまで一気に話を続けたアナトを見てアイネは思っていた。

(あんたも十分世間知らずの若い女っぽい)

 短い丈のスカート。どう見ても私より若いなあ……とアイネが思っていた時にバアルが聞いた。


「ところで君はだれ?」

「あたしの名前はアナト。年は十六。見ての通りのすごい美少女で勇者」

(また……めんどうな事になりそう)

 アイネが嫌そうな顔している。


 バアルがアナトの勢いに、押されながらも質問を続ける。

「えーーと、名前がアナトで年は十六歳までは分かったが……うん? あれ、もしかして獣王が言っていた召喚された、もう一人の勇者!?」


 立ち上がったイルがアナトに向う。

「久しぶりアナト。今も転生勇者とお父さんを探し中なの?」


 一緒に旅をしたアナトに会い、少し赤みを帯びてきたイルの頬にアーシラトも安心した。

「あら、勇者さん、お久しぶりね! 元気にしてたかな?」

 急に背負っていた大剣、重原子の剣『昴』を抜いたアナト。

「あらアーシラトさん……してた、してた。おまえの頭をパックリ切る為にな!」


 アクチノイド鉱石でつくられた、超重量の剣を空中でクルリと一回転させアーシラトを威嚇する。

「あんたのせいで、どんだけ酷い目に逢わされたかわかる? とりあえず564(ころす)!」

「あら、人間の勇者って、とってもお下品ですわねーー」

「アーシラトめ絶対、ぶっ殺す!」


 アナトの姿を見てウン、ウンと頷いたイル。

「やっぱりアナトらしいなあ。ストレートで素敵」

 バアルがアーシラトの前に出て、アナトを止めようとする。

「イル、バカ言ってる場合か! 導かれた勇者よ。気持ちはよーーーーく、分かるがここは堪えてくれ……え!?」


「てぁああ!」アナトの気合いが響いた。


「え? 俺ですか……うぁあ!」

 ハッシ、白羽取りでアナトの大剣を素手で受け止めたバアル。

「もう一人の勇者、俺を切る気なのか?」

「あなたが誰か知らないけど、邪魔する奴は一緒に切る!」


「ふん、切れるもんならやってみなさいな」

 後ろのアーシラトのアナトへの挑発行動に慌てるバアル

「アーシラトこら、本来はおまえを切りたいのは俺だ、なんで人間の勇者から切られるんだよ?」


 さぁ、理解不能としておきなが「面白いからいいんじゃない?」と宣うアーシラト。

「アーシラト、こら! うっ、おい! 人間の勇者……切る力が増加しているって、エナジィ放出するな!」


 アナトの腕から蒼いエナジィが放出され、ストレングスを高め、剣の押し切る力を増加中。

「おい、おい、誰かアナトを人間の勇者を止めろ!」


「はーい」イルの声が響き、その後、ガツウン、何かを叩く音が聞こえた。

 同時にバアルを切ろうとする力が消えた。

 ふにゃー、と倒れるアナト。その後ろには魔法の杖を上段から振り下ろしたイル。


「はい、アナトを止めました!」

「止めましたって、少しやり過ぎと違うか?」

 バアルが倒れているアナトを心配している。

 やりすぎ指摘されたイルがアナトに聞いた。


「そっかな。ねぇ、アナトは本気で気絶してるの?」

「きゅうぅう」一言口にしてから、ひっくり返ったアナト。それが返事だった。


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