第73話 アイネが恐れる者
フードを脱いだ二人の身体を、分厚い防寒着の代わりに、暖かい春の風が包み込む。
「アイネ、ここがエールなのか?」
エール王宮都市は、ゴース大陸の北に位置すると言われているが、険しい山々に閉められた石門により、外との交流は殆どいない。
「そうですよバアル。ここがエールです。悠久の都と呼ばれています」
「なるほど。確かに暮らしやすそうな国だな」
二人は赤龍王から逃れる為に、強制離脱の魔法で飛んだ。
それからアイネの故郷である宮殿都市エールへと、歩いて移動したのだ。
強制離脱の魔法は任意の場所に飛べる分けでは無く、事前に詠唱者が持つ場所の記憶の一カ所だけに戻る魔法だ。
アイネはエールを設定していたのだが、エールは閉ざされたの国のために、直接にエール移動は禁止されていて、移動先は手前の山中と決められていた。
「……元に戻ったってきいたのだけど……あの娘はどこかしら?」
ソワソワ仕始めるアイネに、バアルが尋ねた。
「どうしたの? なにか気がかりでも?」
「えーと、今は会いたくない娘がいるの。バアルには関係ないですけどね」
「アイネが身構えるなんて……赤龍王の前でも堂々としていたのに」
「ある意味、赤龍王とか、ネームドモンスターより手が悪いのですよ」
「ええ!?」
バアルが驚いて身構える。
「そいつはどこに? 俺は赤龍王との戦いで、深い痛手を負っているので、出来れば強いモンスターとの戦いは回避したいけど、命の恩人であるアイネの為なら一緒に戦うよ」
男気を見せるバアルに、アイネは頭のてっぺんをボリボリと掻いて首を振った。
「あの娘の標的は私だけですから……あっ!」
アイネが声をあげた時、バアルの後ろから大きな声がした。
「アイネ~~! やっと帰ってきたね。騎士団長をメンドクサイとか言って脱走したあげく、三年も音信不通。私はその間にアーシラトに、キノコにされていたのよ。覚悟は出来ているよね!?」
大きな声を出しながら小走りで近づいてくる少女。
純白のその姿は巫女のようだが。
「うわーー出た! イル! イルルヤンカシュ!」
ピョン。条件反射で少し跳ねたアイネは、逃げようとするが、巫女イルは後ろから捕まえ、アイネを羽交い絞めにする。
「うぁああ! まって! ちょっとだけ待ちなさい! 落ち着いて! わたしの話を聞いてちょうだい!」
「話? ええ、聞くわよ。これから、ねっちりとね……うふ」
目が笑ってない巫女のイルは、非常に楽しそうだった。
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