第71話 王とアーシラト
「アーシラト」
魔女の名前を出した赤龍王は、穏やかな表情から戦いの表情に変った。
「軍団の方はどうだ?」
アーシラトが即座に回答した。
「はい。すでに88%編成を完了しています……あとは……」
赤龍王がアーシラトの手をそっと握った、少し驚いたアーシラトの言葉が止まる。
アーシラトの瞳は王に仕える者というより、愛しき者を見る視線に変った。
アーシラトに触れたままで王に魔女の言葉が乱れる。
「あ……はい。この世界の特異点である、大魔王と転生勇者については、元家族であり、動きは正確に補足していました……ゴースの内乱までは。もう一人の転生勇者アナトは驚くべき力を身につけました。勇者バアルは現在行方不明ですが……獣王アスタルトと暗黒騎士アガレスも同行しています。」
赤龍王の顔を愛しそうに覗いるアーシラト。
「王の戦いで現れた騎士に救われたバアルは、現在はその者達と一緒にいると思われます……あ」
立ち上がった赤龍王は、アーシラトの手を引きその身体を抱き寄せる。
身を引きかけたアーシラトを、赤龍王はもっと強く引きせた。
「王……」
その力強さに身を任せて、瞳を閉じたアーシラト。
「はるか昔に六頭龍のリーダーで世界を収め、神人とも戦った竜。貴方から見れば、私など星の塵と同じでしょうに」
少し痛いくらいの力で、赤龍王は魔法使いを抱きしめる。
「お前が側に居てくれないと……オレが困る」
アーシラトが、王の腕の中でフッと笑った。
「子供みたいですね」
しばらくアーシラトは、王の顔を見ていた。包まれた頑丈な腕の中から……
窓から入る月の青色が写る。アーシラトの腰まである髪。香りを嗅ぐ赤龍王。
ゆっくりとした二人だけ時間が流れた。
しかし、直ぐに二人は動き出すしかなかった。
王の腕の中でアーシラトが言った。
「バアルの行方と、もう一人の勇者への接触を開始します」
赤龍王はアーシラトから腕を放した。
「もう少し、こうしていたかったな。だが、戦いが待っている」
アーシラトが後ろを向いた王に、真紅のインバネスコートを着せた
背中には六竜が金色で刺繍されている。
「わたしもそうです……立ち止まるわけには行きません」
「アーシラト。おまえの優れた情報力を生かしてくれ。バアルを助けたものはエールの……」
赤龍王の顔を見ながら、コクリとアーシラトは頷いた。
「はい。存じています。エール騎士団の元団長であるアイネ・クラウン。まずはエールに行こうと思ってます」
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