第58話 魔女アーシラト

「これでやっとエールへ行けるのね」

 あたしは一人で魔法陣の中心へと向かう。


 クィィイン、中心に立つと足下から音が響き始めた。

 クリスタルが魔法陣へと力を送り込む。


「じゃあねアナト、今度会う時は本当のわたしの名前教えてあげる」

 ナメコが小さな手を振った。


「ジャンプの回路が開いた。おまえは魔法で瞬間移動する」

 アークおじさんがジャンプの開始を伝えてきたが、なんかおかしな感覚。

「なんか……不安定な感じがする」

「うん? おまえ転移のイメージは出来ているだろうな?」

「イメージ? あたしエールに飛べるのよね?」

「そうだ、おまえが強く思えばジャンプは出来る」


「強く何を想えばいいの?」

「飛ぶ場所だ、今回はエールの街」

「……あたしエールなんか行った事無いわよ!?」


 既に腰の辺りまで消え始めたあたしの身体。

 慌てるナメコを見ながら、スッと意識が薄くなり始め同時にあたしはジャンプした。



……冷たい……


「目が覚めたかしら?」

 この声……夢の……名前を知っている……


 身長は167センチ、ヨーロッパ人としては低いが日本人としては高め。

 それもシューズはフラメンコシューズで硬質で高いヒールがついている。

 着ている服はジプシーレッド色のドレス。

 瞳はアンダルシアの色であるモスグリーン、髪は黒色で腰より長いがきっちりと束ねている


「魔女アーシラト!?」

 身を起したあたしのまえに、美しい姿を見せる魔女。

「ようこそ、闇の国レイスへ」

「レイス?」

「ゴースの地図にない闇の国よ」

 一段高い場所の黒銀で出来た玉座に座り、アーシラトが嬉しそうにあたしを見た、

「あなたのイメージがあやふやで、エールへの転移が失敗。偶然、闇の国へジャンプした……こんな感じかな?」


「偶然ここに来たっていうの?」

 あたしじゃない者の声が答える。

「勇者アナトを呼び寄せる為に起こした事だろう? 魔女アーシラト!」

「誰だおまえは?」

 アーシラトが大きな目であたしを見た、

 その時、あたしの背中から地上に飛び降りた者。


「え? ナメコ、あんたもジャンプしたの?」

「あんたが、目的地であるエールを、まったくイメージ出来なかったから慌てたわよ。急いであんたにしがみついた……ジャンプに必要なエナジィは、体積に比例するから、小さくて軽いわたしならアナトと一緒に飛べた」


 玉座の袖に肘を乗せて、ほおづえをつくアーシラト。

「ふ~~んまだ生きていたんだ。そんな無様な格好はなに? エールの巫女。いや

イルイルルヤンカシュと呼ぼうか? 白き龍よ」

 ナメコは本当の名を告げたアーシラトを睨みつけた。

「白き龍? なんの事だか。でも残念ながらイルイルルヤンカシュは生きているわ、あなたに呪いをかけられ、こんな姿になったけどねアーシラト!」


 アーシラトはあたしとナメコを見て微笑んだ。

「あなた達が一緒だとは助かるわ……偶然ね」

「嘘つきだなアーシラト。ここにアナトを呼び寄せたのはおまえの策略だろう?」

「フフ、確かにそうね。イル……イルルヤンカシュ。Il's shrine maiden(イルの巫女)」


「え? ナメコどうゆう事なの?」

 あたしの問いには答えず、アーシラトを睨みつけるナメコ、いやイルルヤンカシュ。イルと呼ばれていた者。

 アーシラトが氷のような冷たい瞳でナメコを見た。

「クク、さあイルの巫女よ勇者よ。そのエナジィを私に譲って頂戴」

 アーシラトが握っていた右手を開いた、そこには一個のガラス玉が見えた。

「まさか、それって……」


 ナメコがガラス玉を見て泣きそうな顔になった。

「これは人間の巫女イルの、エナジィを吸い取ったガラス玉。勇者も横に並べてあげるわ。ガラス玉としてね」


「どうしてここまでナメコに害するの?」

 あたしはアーシラトに向かう。


「なぜだって? それはこの下級の者たちに傷つけられたからさ……上級の私がね!」

 アーシラトがマウントをとってきた。

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