第51話 ゴシゴシと王様への謁見

 どうしよう? 牢屋の前で考えているダゴンに、あたしの怒り爆発。

「な、なに考え込んでいるのよ! 早くここから出しなさいよ! ばかダゴン!」


「そんなに命令口調で言われてもなあ。オレってばかだし、現状が良く分らないなあ~~。」


(こいつわざとやっているな……しょうがない)


「えーーと赤髪の立派な騎士様、これは何かの間違いです“か弱き美少女”をどうかお助けください」

 急に変ったあたしの態度に、わざとらしさを感じながらも、ダゴンはキノコの大臣へ頼んでくれた。


「こいつを牢屋から出してください」

「え? でもこの娘は凶悪犯ですよ? しかも汚い恰好で」

 チラリ、あたしを見たダゴンはため息交じりに大臣に頼んだ。


「あれでも勇者なので、ちゃんとした装備をしているんですよ。外に出して良く洗ってやってください。それから王様の所へ連れていってください。私も同行します」


 それからあたしは城の井戸の前に連れていかれた。


「うひゃあ冷たい……」

 ブルブル、冷たい水をかけられて、両手で肩を抱きながら震える。

 続けて井戸に桶を投げ込んで、引き上げる番兵のキノコ人。


「冷たいか? 井戸水だからな。おい、おまえたち、ささっと磨け」

「はっ、了解しました!」

 

 水をくんでいるキノコより、位が低そうな二人の番兵が、あたしに白い粉をかけた。

「ぺっぺ、なによこれ! また眠りの胞子?」

 偉そうなキノコの番兵が答える。

「おまえを眠らせてどうするんだ? それは洗剤だ!」


「洗剤って、食器とかお風呂とか洗うやつ?」

「ああ、そうだ。分ったらそこの地面に横になれ!」

「なんで中学女子が洗剤かけられて、こんな石畳に寝なきゃダメなのよ!?」


 ザバアアー

「きゃああ、冷たいって言ってるじゃないのよ~~!」

 番兵の隊長は、デッキブラシを持って部下の二人に命令した。

「面倒だから、このまま洗え!」

「はい、了解しました!」


 ゴシゴシ、三人の鎧を着たキノコ人が、あたしをブラシで磨きだした。


「いいか、こいつは凶悪犯だ。気を許すな!」

「はい、了解しました!」


 ゴシゴシ、ブクブク、ザバアアー、一通り磨いた後に、洗剤の泡を流すためにまた桶から水。


「よし! 次いくぞ。思ったよりこいつは汚れているな!」

「はい、了解しました!」


 ズブ濡れになったあたしは、もう抵抗するのは止めていた。

(もう好きなようにして……)


 一時間くらい磨かれたあたしは、キノコの国の王の間へと連行された。

 そこにはもっとも偉そうなキノコと、赤髪のナイトが待っていた。


「おお、奇麗になったじゃないかアナト」

「おかげさまで……ダゴン……おぼえてろよ……」

 不満そうなあたしは置いておいて、ダゴンが高い位置にある玉座に頭を下げた、


「王様この者です。先程お話しましたのは」


 玉座に座るキノコ人は、頭には宝石が鏤められた金の冠。

 身体は豪華な金の刺繍の紅い服を着ている。

 そしてその身体の大きさは、今まで会ったキノコ人の中でも飛び抜けている。


「なによ、この偉そうなでかいキノコは……」

「ばか、おまえは黙っていろ!」

 ダゴンが慌ててあたしの口を手で塞いだ。


 巨大なキラキラなキノコが口を開いた。


「ふむ、その者が騎士殿が言う、勇者であるのか?」


(えっと、勇者? あたしが? そうなのかなあ……イテ)

 考え込むあたしの頭に手を置き、そのまま力ずくで強引に下げさせたダゴン。

 力あまって床に頭をぶつけるあたし(ダゴンの馬鹿力め!)


「王様。この者が着けております装備を、特に剣をご覧ください」

 ダゴンの言葉にキノコの王様は、マジマジとあたしを見た。


「うむ、紅の鎧であるコタルディ、両手に輝く虹色の指輪。そしてその者が背に刺したる剣は勇者の剣であるスバル(昴)」


 洗剤でゴシゴシされたので、かなり見やすくなった、あたしの装備の感想を王様が述べた。

 続けて神妙な顔でダゴンが、もっともらしく話を続ける。


「お見立てのとおり、この者は勇者に相違有りません。この世界に魔の計画があり、密かに現代より召還されたのが、勇者アナトです」


 ダゴンの言葉に「え? そうなの?」と言いかけた、あたしの頭を強引に下げさせたダゴンが、王様の返答を待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る