第50話 殺人容疑で捕まる
……男の子との冒険の夢を久しぶりに見た……
「はっ!」
気がつくと、あたしは石の壁に囲まれた部屋にいた。
目の前に鉄の柵があり、見るからに牢屋って感じだった。
部屋は暗湿っぽくて変な匂いもした。
「あたし何をしていたんだっけ?」
起きたばかりのあたしは寝ぼけていて、夢と現実が混在して状況が分らなかった。
「……目が覚めたか」
声の方を見ると、鉄の柵の向こう、牢屋の前の廊下にあのキノコ人が立っていた。
「あ! 思い出した。あなたに眠りの胞子で眠らされて……」
キノコ人は鎧を着て右手には鎗、左手には盾を構えて直立不動で立っている。
鉄の檻の間から顔を出して、あたしはキノコ人に不満を言った。
「あたし何もしてないのに、牢屋に入れるなんてひどいわ。早くここから出して!」
「おまえには殺人未遂の容疑がかけられている。外に出すわけにはいかん」
「殺人未遂? あたしはキノコを少しかじろうとしただけだよ」
「それじゃあ聞くが、ワシがいきなりおまえの頭をかじったらどうなる? 人間は大騒ぎだろう?」
「それはそうだけど……でも実際にかじったわけじゃないし、一応あなたに確認したじゃない?」
「なんの確認だ?」
「……食べていいかって聞いた」
「そんなのダメに決まっているだろ!」
ガン、キノコの番兵は鎗を石の床に叩きつけた。
「きゃあ、怖いから止めて! だってあたしの世界ではキノコは食べ物なのよ!」
「それは裁判で言うんだな。それとワシはおまえが知っている者とは違うぞ」
「え?……違うキノコなの? 全然見分けがつかない」
「失礼なやつだな。まあワシも人間の見分けなどつかないがな。とにかく静かにしていろよ」
そう言うとキノコの番兵(?)は向こうへ行ってしまった。
「もうキノコのくせに……にしても殺人未遂容疑って……困ったなあ。前科者になったらお母さん怒るだろうなあ」
キュウウウ、あたしのお腹も困った音を出す。
「お腹空いた……あのキノコ食べたかったかなあ」
お腹を鳴かしながら、また物騒な事を思案していた。
しばらくして人の声が近づいて来る。
「……そんなに騎士さんがお困りとは」
「ええ、途中で大食らいの娘を拾いまして。そいつは歩くのは遅いのに、飯だけはガッツリと食うので食料に困っていました」
「そうですか、出来るだけのサポートをさせて頂きます。キノコ人は旅人には親切にします。それにこの国を守ってくださる、騎士さんであれば協力は惜しみません」
「それは助かります」
「今日はご馳走を用意しました。森でいい肉がとれたと連絡がありました」
「肉ですか! いいですね肉は好物です」
「良かったです。我々は肉を食べませんので、遠慮無く全部召し上がってください」
「それは楽しみです。サラマンダーの肉もその娘に食われてしまい、肉は本当に久しぶりです。あ~楽しみだなあ~」
嬉しそうな声が近づいてきた。
「アナトに食べられるから、最近腹いっぱい食べてないから肉は久しぶり~♪」
嬉しそうな声はあたしの檻の前で止まった。
あたしの檻の前に立ったのは、番兵や森にいたのよりずっと大きいキノコ人だった。肩から赤と黄色を基調にしたストールをかけていて、いかにも偉そうな感じがする。
「これです森で捕まえた肉……ああ、なんて事でしょう。全然、美味しそうじゃないですな」
偉そうなキノコが落胆を見せた。
赤い髪の無駄にデカイ男が残念そうに口を開く。
「そうですね……痩せているし、ちっちゃいし、汚れているし……なんかこちらを睨んでいるし……て、おまえはアナト? なんでこんな所にいるんだ?」
あたしは腕を組みながら、可能な限りの不機嫌な顔で、ダゴンとキノコの大臣に答えた。
「期待を外して済みませんねえ。大食らいで歩くの遅いのに、痩せていて、ちっちゃくて汚れていて、美味しく無さそうで!」
顔を見合わせたキノコ大臣とでっかい赤髪の男。
「えーーとですね、あの騎士さん、この泥沼から釣った鮒みたいな娘と知り合いですか?」
「……ええ。残念ながら」
ため息交じりのダゴンにあたしは切れる!
「残念? 泥い鮒だって? 後で覚えていろダゴンとキノコ!」
あたしの言葉にダゴンが両手を広げて否定した。
「鮒って言ったのはこっちだろ!」
「そんな細かい設定は覚えていられないわ!」
私のお怒りにちょっと額切れ気味のダゴン、
「大体おまえは、なんでここにいるんだ? 待っていろって言っただろ? あの後おまえがいないから目一杯探したんだぞ!」
ジロリダゴンを見たあたし。
「待っていたわよ! でもお腹が空いて……しょうがなくキノコを……食べようかと」
私の言葉に驚くダゴン。
「え、食べる?キノコ人をか?」
キノコの大臣がチラリとあたしを見た。
「この者は殺人未遂の罪で牢屋に捕らわれています」
驚いていたダゴンは、妙に納得した表情を見せた。
「殺人未遂? おまえ腹減ると凶暴だからな……そうか」
あたしは大きく首を振ってからダゴンを睨み付けた。
「なんで、そこで納得しているのよ! あたしを犯人にするような言い方は止めなさい!」
あたしとダゴンのやりとりを見ていた、キノコの大臣は困り顔。
「この娘には。重大な犯罪の疑いがかかっていますが、騎士さんと知り合いだと言うし……どうしたらいいのでしょうか」
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