第48話 本当のあたし

……ゴースに来てから五日目……


「カラオケ行きたい~~!」

「そんなに、そのカラオケっていうのは大事な集会なのか?」

 何度かダゴンが聞いてくるが、あたしも何度も頷く。


「現代では最大級のコミュニケーション手段だよ」

「ふ~~ん、カラオケねえ。じゃあ今度はオレも連れて行けよ」

 なぜだか一瞬クラスメートと、ダゴンが楽しそうに、デュエットをしている姿が浮かんだ。


「ダメダメダメ……絶対ダメ」

 たしかにダゴンは好かれそうだが、そんな事になったら、友人から厳しい尋問を受けるだろう。

「あの赤髪の大男は何者!?」と。


 内気な性格のあたしは、クラスメートにちゃんと、説明出来る自信がまったくない。


「そんなにダメダメって、言わなくてもいいだろ……大体、友達ってそんなに気を遣うものか?」

「気を遣うわよ。ちょっと人と変ったところがあるだけで、のけ者にされたりするのよ」


「そんなのは友達と呼ばないだろ?」

「現代の中学生は色々大変なの。友達との関係をうまく保てないと学校へも行けない」


「ふ~ん、それなら行くの止めたら?」

「ええ?」


 あまりにストレートな意見と感情だった。

 この世界の人達は、みんなダゴンのような考え方なのだろうか。


「じゃあ聞くけど、ダゴンが友達だと思う条件は何? ドラゴンとか一緒に倒せば気が済む?」


 ダゴンは二十代後半、そしてあたしはまだ十代の前半。

 それなのに、あたしは大人のような曖昧な言い方、ダゴンは子供のような真っ直ぐな言い方。


 何にでも用心して、本当の自分を見せられないなんて十代で考える事じゃない。

 でも現実はそうはいかない、自分の気持ちを真っ直ぐに他人へ向ける事なんて出来ない。


 それは勝手な思い込みだとしても、試してみる度胸なんてあたしにはない。

 でも、クラスのみんなに本当のあたしを見せられたら、気持ちいいだろうなあ。


 そして堂々とダゴンをカラオケへ連れて行く、新しい友達だと紹介する。

「……異世界からきたダゴンです。少し脳筋だけど、いい奴よ」

 そこですかさずダゴンが挨拶して……


「只今、ご紹介に預かりました、恋人募集中のダゴンだ。今日はカラオケという集会に呼んでもらってとても光栄だ。手土産としてこれ持ってきた」


 笑みを浮かべながらダゴンが掲げた右手には……コボルトの干し首。


「ダメダメ! 絶対ダメ! その日からあたしのあだ名が“干し首ちゃん”になっちゃうよ!」

 異常に興奮して独り言を連発するあたしを、百メートルくらい先から不思議そうに見たダゴン。


「そのカラオケ集会の話は後にしてだな、先を急ぐぞ。早く転移の神殿に着かないと」

 妄想中だったので、ダゴンに置いて行かれ気味のあたしは慌てて走り出す。

「そうだった……ダゴン待って!」


 空中のレンズから届く光が乏しくなってきた。既に夕方になったようだ。

 でも前を歩くダゴンの足は止まる気配がない。


「ダゴン、まだ神殿に着かないの疲れてきたよ」

「あと二日くらいで着く」

「あと二日か……今日で五日だから、六日目には着きそうね」

「取らぬ狸の皮算用だな」


 ダゴンの例えに憤慨する私。


「狸? 失礼な一応あたしは人間です!」

「計画どおりに物事は進まん、という意味だ。それよりこの辺は物騒な所だ気をつけろ」

「物騒って何が ?いつもと変らない暗い森の中ですが……そろそろ日の光が恋しいわ」

「アナトはまだエナジィを感じられないようだな。おまえを食おうとする、黒いエナジィがそこら辺で感じられるのだが……」

「全く感じません。本当にエナジィって存在するの? オカルト話なんじゃないの?」


 あたしの能天気な返事に悩みが深くなるダゴン。


「このぶんだと、神殿にたどり着けても……エナジィが感じられないと困るぞアナト」


 ダゴンが歩くのをやめて、私にここにいろと言ってきた。


「人に会ってくるからここで待っていろ」

「また食べるの?」

「何で人に会うと食べ物をもらうと決めるんだよ! 大体おまえが食うんだろ? それもたくさんな……いいか、絶対にここから動くな余計な事するな」


「はいはい、息も止めて、心臓も止めておきます

「本当に大丈夫か? この辺はオレでも道が分らなくなる、おまえは絶対迷うから動くなよ」

「はいはい! 大丈夫ですよ~~」

「絶対だぞ!」


 あたしの軽い返事に心配しながら、道を外れて深い森へとダゴンは入っていった。

「う~~ん、やっぱりダゴンには好きな事が言えるなあ。これが本当のあたしなのか……それか、あたし、ダゴンに甘えているのかな?」

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