第17話 大きくなれよ
アスタルトは看守を払った手を返して俺を指した。
「それとそこ、小さい奴。文句はもっとでかくなってから言え!」
獣王は向きを変えて反対側へと歩き出す、俺も少し離れて、その巨大な背中を追って歩きはじめた。
「で? どんくらい大きくなればいいんだ獣王……?」
前を歩くアスタルトに声をかけた。
「うん? そうだな……オレくらいかな」
鼻で笑いながら、獣人が続ける。
「それにおれは所長だ。呼び間違うな。獣王とは呼ぶな」
獣王の言葉を聞き流し俺は不満を漏らす。
「フン! 獣王より大きくなれるわけないだろ……あとさ、ここに隠れてるのには飽きた!」
両手を首の後ろに組み、欠伸をしながら歩く俺に、獣王は立ち止り振り返った。
「所長だ! いいか分かったか!?」
「はい、はい、はい、分かりました。しょ・ち・ょ・う」
フッと鼻で笑い、獣王はまた歩き出した。
「ねえねぇアスタルト。監獄内での噂なんだけど転生勇者が現れたって、なんか知ってる?」
俺の言葉にアスタルトが答えた。
「勇者アナトの事か? おまえと同様に現代から、召喚された事は確かだが、今どこにいるのかは分からん」
「本物の勇者様はこんな所にいるのになあ。国家間の争い事に巻き込まれるとは思ってなかった」
「それは運が悪かったな。いや、計画通りなのかもなラシャプとアーシラトの」
「かもなって? ところで獣王、いつまでオレとここに居る気?」
「牢獄は身を潜めるにはいい所だ。飯は不味いがな。いつまでだと? それはおまえがオレよりでかっくなるまでだ」
「だ・か・ら、そんな大きくはなんないって……それにオレだって結構強いんだぜ?」
俺はレべリオンが起こした戦乱の為、懇意にしている獣王アスタルトによって、この牢獄に身柄を隠されていた。
「それよりバアル。さっきエナジィ(闘気)を使おうとしたな?」
急に立ち止まりに顔を近づける獣王。
目の前に迫った獣王アスタルトのライオンの顔を見てバツが悪そうに笑う。
「あはは、ちょっとだけだよ、ちょっと」
パチン。アスタルトが俺の頭を中指で軽く弾いた。
「イテテ、何するんだよ!」
「バアル……エナジィは使うな」
「でもアスタルト、看守の奴らすぐに弱い者虐めをするんだ」
パチン!
「イテテ、また! 何するんだよ!」
またを指で俺のおでこを弾いたアスタルト。
「転生勇者はゴースでは特別な存在なんだ。目障りなものだ。今は気をつけろ! 息を潜め自分の力を磨け! 必ずおまえが必要になる時が来る。それまでは絶対目立つな。わかったな!?」
アスタルトの警告を聞かずに、俺は窓から外の景色を見ていた。
俺の耳をつまんで、アスタルトが大きな声を出す。
「バ・ア・ル・わ・か・っ・た・な!?」
これにはたまらず降参する。
「わ、わかりました……もう、大人げないなぁ~~獣王ともあろう者が」
「ふぅうう、おまえって奴は……本当に分かっているのか?」
ため息をつき、アスタルトが前を歩きはじめた。
(レべリオンの主の赤龍王が視察に来るかもしれん。バアルが注意を引かねばいいが……)
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