第15話 女王と暗黒騎士
俺は嫌悪と恐怖感を転生してから初めて感じた。
血を浴びたアガレスの叫び声が、城の奥にある女王の間まで届いたからだ。
「全員殺せ」
アガレスの軍が女王の間を目指して前進を始めたのに、アガレスは一人その場に止まった。
「アスタルト。それにエール騎士団団長。あと、一人は記憶にないな」
アガレスの言葉に気配を消していた三人は姿を現した。
「アガレスおまえの目指した変革について聞いたときは、ここまでやるとは聞いてなかったぞ」
アスタルトの言葉に暗黒騎士は首を振る。
「おまえと大魔王ツクヨミには、大体の事だけしか話してない。二人はカーニバルみたいなものだと思ったようだが、ゴースの女王を殺して新たな国をつくる事は、魔王ラシャプと魔女アーシラトの提案だよ」
身を乗り出して話を聞こうとするアスタルト。
「どういうことだ? 大軍相手に大暴れが俺と大魔王の要求だった。国を取るだと? 小僧のラシャプや小娘のアーシラトが、勝手にお前たちと密談していたなんてな……俺たちをだしに使ったわけか。命知らずな事だ」
クク、アスタルトの言葉に、暗黒騎士が心の底から笑った、
「ラシャプとアーシラトは見かけの年ではない。そして俺たちもあの二人の計画の全貌は知らん。だが国が手に入るなら策略にものろう」
アスタルトは暗黒騎士を睨みつけた。
「馬鹿な事をしでかしたものだ。策略にのり、よりによって相棒をレべリオン、赤龍王にするとは。また戦禍を招きたいのか!」
アスタルトの言葉には答えずに、右手を挙げて兵に命令を与えるアガレス。
「この二人を拘束しておけ。決着がつくまでは表に出ないでくれ獣王よ。赤龍王がおまえと横の小僧を見つけたら面倒なことになる……そうだな監獄の所長でもやっていてくれよアスタルト」
俺とアスタルトをアガレスの兵が囲む。兵士の一人が聞いた。
「アガレス閣下。この女はどうしますか。捕えますか、それとも……」
兵士の言葉にニコリと笑みを見せたアイネに頷くアガレス。
「お前たちが束になっても、どうしようもできない」
「しかし」兵士が拘束の動作に入ろうとした時に強く命令するアガレス。
「やめろ! エール騎士団と戦うつもりか! アイネ団長失礼した。密約通りエールとは休戦協定むすんでいる、それは厳守させる」
俺とアスタルトは素直に拘束されて、アガレス軍の捕虜になった。
当然、暴れようと考えていた。暗黒騎士は俺には無理ぽいが、騎士団団長アイネと獣王アスタルトがいる、なんとかなるだろうと考えていたが、あてにした二人が戦う意思を見せなかった。
「なんで、黙ってつかまるのさ! アスタルト、アイネこいつらをやっつけよう」
文句が止まらない俺は、アスタルトとアガレスの兵によって。城外に連れ出された。
一人残ったアイネはアガレスと女王の間へと進む。
座の上でまるで眠るように瞼を閉じ、何事にも反応を示さなかったマスティマ女王が、静かに目を開いた時、女王の前に血だらけの兵士が転がり込む。
「女王様、申し訳ありません。城の奥まで侵入されました。どうぞお逃げください。敵はアガレスが先方を務めております。お急ぎを……ウグ」
女王にグリモア城陥落を伝えた兵士を、後ろから飛んできた弓矢が打ち抜いた。
口から血を吐き出し倒れる兵士を踏みつけて、アガレスの軍勢が女王の間になだれ込む。
殺気立つ両軍の兵士……祈りをささげるグリモア城の神官。
アガレス軍が一気にマスティマ女王へと迫り、それを阻止するマスティマ軍。
女王の間は怒号と祈りの声が響く地獄へと変った。
一段高くなった玉座で、この国の統治者であるマスティマは、狂乱の中で再び静かに瞼を閉じた。
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