第10話 ロケットからの脱出


 少々の間を置き彼女からの答えが返ってきた。


「えーーと、とどめをさせばいいのですか?」

 焦った俺は助けてくれる、いや止めをさそうとしている女に叫んだ。


「あほか! ベルトを切ってくれって言っているんだ……あれ?」

 一瞬で空間に解き放たれた俺は、逆さまの宇宙船の硬質な天井に頭をぶつけた。

「いたた! いきなり切るなよな。うん、いつ何で切った? この丈夫なベルトを」


 頭をさすりながら見上げる、彼女の着る白いローブは赤く縁取られ、胸には五つの角を持つ魔法陣が刺繍されていた。

 その上からかけられた首飾りの中央には、青き光を湛えたクリスタルが輝いている。


「これで切りましたよ」


 彼女が見せたのは美しい細工が施された長く細い剣。

 剣を鞘から抜くと透けるような薄い刀身に特徴的な模様が浮かぶ。


「それって、ダマスカス?」

「ええ、よく知ってましたね。あなたの腰の剣も同じようですね。でもおかしいなあ、小者の魔王が持っていたはずだけど」


 小者で悪かったなと思いながらも助けてもらい礼を言う。


「助かったよ。ありがとう。俺の名はバアル。転生勇者だ」

 なるほど、手をポンと打った彼女は目が大きくかなりの美女だった。

「それでこんなプレイをしているんですね。合点がいきました」


 俺は自由になった体全体で否定する。


「だから! プレイじゃないって。転生者は変態扱いかよ!」

 ふむふむ、彼女は小さな手で顎のあたりを押さえ考えてから答えた。


「完璧変態ですね」

「ちがーーーう!」

 もうきりがないのでロケットの外へ出ようと扉のレバーを操作しようとした。


「あ、ダメです動きません!」

「あ? 吉田製作所みたいなセリフ言っている場合……あれ?」


 扉のドアは取れてハッチが空いて地面に激突した。

 見上げると彼女は両手で口をふさいで驚いている……いや笑っていた。


「変態だけじゃなくて、体も丈夫なんですね。転生勇者って」

 光の加減によっては純白にも見える、綺麗で明るい色で肩より少し長いくらいの銀髪が、少し気の強そうな眉を隠していた。

「うーーん、きれいなお姉さんって感じだな。ハーレムの予感?」

 転生にありがちな設定に期待を寄せる、俺には察知できなかった後ろの影。

 殺気を感じて振り向く俺より早く彼女はハッチから飛び降り、影に素早くショートに蹴りを入れていた。


 吹き飛ぶ影。それを注視しながら俺に声をかけるきれいなお姉さん。

「気を付けてください。ここは今は戦時中です。変態でも死にますよ」


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