第8話 三号発進

 ラシャプは計画の始まりを告げた後に、最初の作戦を母のツクヨミとアスタルトに説明した。


「獣王と転生勇者……バアルでしたかね? 二人をゴースへ送り込みます」

「待ってました! バーンってやるんだよな」

 喜ぶ獣王は万歳してから俺に向かってくる。


 なんとか大魔王の悪だくみ、いや、魔王ラシャプの陰謀をなんとかしたい。

 口を動かそうとするとかすかに開き始めた唇。

(どうだ! 俺は転生勇者なのだ! ラシャプおまえの企みを……)


 声が出せそうになった時、ラシャプは影のように素早く獣王を追い越し、俺の肩に手をついて唱える。

「眠れ! ラ・スリープ」

 ラシャプの強力魔力に動き始めた俺の身体は一瞬で眠りに落ちた。


「どうしたラシャプ?」

 獣王の言葉にラシャプはなんでもないと答えた。

「今、勇者が起きたように見えたのですが……やはり無理のようですね」


「そうかまだ早い動けないだろ」アスタルトは俺を肩に持ちあげる。

 片手を添えて眠った俺を支えて歩き出す。

「あの赤いのでいいよね?」

 大魔王がラシャプに聞くと大きく頷いた。


 大きな湖畔を通り過ぎて10分ほど歩くと小高い丘が見えてきた。

 きれいに整えられた芝生がきれいな小道を進むと巨大な赤いものが。

 大魔王と獣王が巨大なロケット近くにいくと乗り込み用ハッチが開いた。


「うん?」俺はロケットの中に入れられる直前に目を覚ました。

「なんでサンダーバード三号あるんだよ」声もかすかにだが出た。


 あら、ツクヨミが俺の声を開き俺を見た、

「起きたみたいね。この赤いのはあんたがテレビで見ていたやつじゃない」

「たぶんサンダーバードだよな。俺は宇宙に飛ばされるのか?」

 俺の問いに笑った大魔王。

「なんで宇宙なんかいくの。ゴース公国へ飛ばすだけよ」

 いやいや、俺はおかしい点を指摘する。


「それなら一号だろう? なんでロケットの三号なんだよ」

 人差し指をこめかみにあてて少し思いを廻らした大魔王。

「赤色が好きなのよ」

 でたでた、適当な考えで魔力を使い、ハイファンタジーにロケットなんか持ちだした


「あのな! 魔力の無駄遣いはダメだって……いや、そんな事より大変だラシャプが」

 ラシャプが怪しいと言いかけると、一瞬で俺の前に立ち言葉を打ち消す魔王ラシャプ。


「はい。ここにおります。勇者には事態が把握できないでしょうが、まずはこの機械でゴースへ行ってください。さすればあんまり賢くない頭でもわかってもらえるはず。今はまだ体も動かないのでお静かに。あ、そうそう、三号は弾道軌道で打ち上げるので、一度成層圏まで垂直に飛び、その後に落下してゴースに突き刺さります……間違えた! 着陸します」

 クク、笑いを浮かべたラシャプに益々疑念を持つが、体はまだ動かないし、すでに三号の操縦室のサブコクピットシートに括り付けられなんともならん。


「それではいってらっしゃい! 元気でね!」まるで学校に送り出すように大魔王が手を振る。

 現代の高校生生活を思い出した。

 ロケットエンジンが点火して発射準備に入る。


♪ちゃちゃらちゃ~♪~たた♪~ちゃちゃらちゃ~♪

 (その音楽いる?)サンダーバードのOP音楽を口ずさむ大魔王。


 三号のパイロットシートに座り手を振る獣王。

「獣王? あなたも俺と一緒にいくの?」

 ハハ、俺の言葉に笑い出した獣王アスタルト。

「牛乳飲ませるからな。じゃあ行ってくるぞ」


 ハッチが閉まり、三号は轟音と煙の中発進したが、すぐ上に天井があった。


「ここでハッチが開くのか。プールが動いてとかギミックカッコいいもんな」

 俺の考えとは裏腹な大魔王の言葉。

「あ! ハッチ造るの忘れてた! どうしよう」

 ええ! 驚く俺と大魔王の言葉が終わるより早くラシャプが呪文を唱えた。


「他の世界へ開け。ラ・ゲート」


 天井に三号が衝突する直前にゲートが展開され、屋外へと転送された。

 ものすごい魔力だなと感心しながら、最初からゲートの魔法で送り込めばいいじゃんかと思った。

 

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