おぞましき企み
「先輩、何を企んでるんですか」って弟子に言われた。
人聞きの悪いことを口にするようになったということは、それだけこの弟子も回復しているということなのだろう。
そして別に特段、何を企んでいるということでもないのだけれど――しいて言うならば後輩たちの成長が嬉しくて、ニマニマしていたというだけなのだけれども。
まあ、心当たりがあるっちゃ、あるのである――先日開発した対部長用劇薬、それを持て余したまま、あたしは悶々とした日々を過ごしていた。
そしたら、目の前で同じパートの後輩たちが戯れているのさ。可愛くてつい頬が緩んじゃうね。
それは弟子からしたら、小学生を見つめるおじさんみたいな不審さだったのかもしれないけれど、それでも純真無垢な子どもたちに癒されないほど、あたしも腐っちゃいない。
病気も闇も持っているけど、一応あたしもまだ人間である。
弟子は可愛いし、いなくなった先輩に惹かれて入部してきた女の子だって可愛い。
そんな一年生はあたしが『アサミン』とあだ名をつけた。それは感傷を含んではいるけれど、あたしなりに精一杯愛を込めた
愛の真似事。
音楽なき人生は
そんなわけで、迷走する後輩たちにあたしは、ちょっとした音楽のルールを教えた。
それは魔女の手習いといったところだったけれど、それでもこの先楽器をやるにあたって、知っておいたほうがいいことだった。森の中に迷い込んだ子たちに、気まぐれに帰り方を教える、そんな感じの行為だった。
その途中で、一年生が言う。
「こんなの、音楽の教科書に載ってましたっけ?」
「載ってないかもしれないね」
そう、これはまっとうに生きているだけでは得られなかった、在野の知識だ。
フィールドワークをした者しか分かりえない、上手くいかせるためのちょっとしたコツのようなものである。けれどそんな些細なことに、後輩たちは一様に、感心した顔つきになった。
そう――そんなものを活用しなければならないほど、あたしたちの状況は切羽詰まってきている。
もはや
もう、これすら利用するしかない。
そうしなければこの子たちすら守れない。
あたしたちのやろうとしていることは、決して正しいことなんかじゃないのだ。
むしろ真逆――お上品な教科書には載せられないほど、身勝手で悪辣な行為だ。
人のためになりなさい。周りの役に立つことをしなさい。
そう言われて、あたしたちは育てられる。けれども、そうでないことを思いついてしまったら――どうすればいんだろう?
「ま、せいぜいがんばりな
そう言われて弟子が苦い顔をしたことは、今でもよく覚えてる。
ああ、こんな幼子たちを自分の望みのために利用するなんて、なんて卑怯なんだろう。
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