世界の裏側より愛を込めて

入れ替わる可能性

 学校祭が終わって、網戸あじと先輩はいなくなった。


 なんだかんだ色々あったものの、イベント自体は無事に終わって――まあ、その辺りの『なんだかんだ』については、滝田たきた先輩にでも聞くといい。

 あの事件は、あの人たちが当事者だったんだから。


 あたしたちその一個下の世代は、その出来事に直接関わっちゃいない。

 見事に巻き込まれた側で、蚊帳の外で何もすることができず――結局、優のように、歯噛みしたまま本番を終えることになってしまった。

 演奏会自体は成功したのに、おかしな話だね。

 三年生はいなくなって、でもその代わり、春日かすが先輩たちは強くなって。

 そして、まやかは変わってしまって。

 そのまま、月日は過ぎていった。


 最も信頼していた先輩がいなくなって、あたしはその期間を日陰の中で過ごすことになったよ。

 元々積極的に、人の輪に加わっていくタチじゃあない。

 さらにここ最近の、物事を舞台裏から眺めるような姿勢も加わって――あたしは、周りの事象をよくできた脚本のように観察するようになっていた。

 事実は小説より奇なりとはよく言ったもんだ。

 こんな風に世界を見ていくと、本当によくできたシナリオのように景色は回ってる。

 そしてそれを、当の本人たちは決して意識することはない。

 だから外側にいるあたしにだけ、未来の流れは観測できたんだ。


 ただの皮肉だね。


 滑稽にも程がある。それを見せて、あたしに何をさせようってんだ。

 仲が悪いわけじゃない。あいつらが嫌いなわけでもない。

 けれども、そんな同い年のバカ女どもが、怒ったり悔しがったり、たまにささやかに笑ったりする中で――ひとりだけ冷えた部分を抱えてるっていうのは……まあ、なかなかにしんどいものが、あるにはあったさ。


 弓枝ゆみえがたまに、そんなあたしに、ふっと触れてきてくれるときもあったけれど。

 当時の彼女の声じゃ、そんなあたしには届かない。それでも、そうしてくれるだけで充分だったけどね。

 それだけで、まだあたしはギリギリ生きてるって、そう感じられたから。

 確定されたように見える運命の中で、まだ予想外のものがあると、演算不可能な要素があると。

 そう思わせてくれるだけで、それでよかったんだよ。


 でも、そんなあたしの元に、しばらく経ってとびきりの未知の可能性が飛び込んできた。


「楽器をやったことはありませんけど、きのうの演奏を聞いて楽しそうだったから、入部しました!」


 そう、別れる人がいれば出会う人もあり。

 三年生が抜ければ、次に一年生が入ってくるのは道理だ。


 そう、きみだよ。

 あたしの可愛いバカ弟子――

 湊鍵太郎みなとけんたろう

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