未来視の魔女
譜楽士
黒い貴女が魔女になるまで
高久広美の述懐
「あー、ドーナツ美味しかったー」
と、そんな間の抜けた声と共に。
あたしたち吹奏楽部OGは、ファミレスに入っていた。
卒業式帰りの、ちょっとした開放感。
家に帰っても特にやることはないし、ならばもう少し話そうと、ここで女子会をやることにしたのだ。
……本当、あの子も言ってたけど、いつの間にあたしたちはこんなに仲良くなったんだろうね?
「ねえねえ何食べるー? とりあえずこの、アイス乗せベリーパンケーキとか頼んで、みんなで分けっこしない?」
「あらあら、智恵ってばまだそんなに食べるの?」
「夕飯前にあんまり食べちゃいけないよって、お母さんに言われませんでしたか?」
「いいじゃん、今日くらい。優ももうちょっと食べないと大きくなれないよ?」
「放っといてください!? ていうか、パンケーキと身長は関係ないのでは!?」
いやはや、まさかこのメンバーでアイス乗せベリーパンケーキなんて、スイーツなものを囲むとは流石にあたしも予想してなかったよ。
現役の時には考えられなかった会話だね。だって一年前のあたしたちだったら、勝手に違うものを頼んで勝手に食べて、勝手に帰ってたから。
ていうか、そもそも集まってご飯を食べようなんて発想にも至らなかったはずだ。
最初に会ったときは、こんな未来なんて『見え』なかったのに――
なんて、そんなことを考えながら苦笑気味に同い年たちを見ていると、不意に声をかけられる。
「……広美も、食べよう」
その黒縁メガネの友人を見て、あたしは今度こそ、降参して噴き出した。
ああ。
こんな未来は、本当に予測していなかったよ。
もう、出会ったときなんてみんな覚えてないと思うけど。
こんな風になれたのは、奇跡中の奇跡みたいなもんだからね?
それは、あたしが。
高久広美が。
この代をずっと『見続けて』いたからこそ、保証する。
何もできない。
干渉できない。
だから、ずっと――あたしは、『ここ』に居てはいけないと思っていたけれど。
「うん、そうだね。食べよっかな」
今はこうして、同じテーブルにつくぐらいにはなっている。
あたしの返答を受けて、パンケーキが注文された。これからそれを食べて、しゃべって――今日はどのくらい、こいつらと一緒にいることになるか分からないけれど。
それでもまあ、せっかくの機会だ。
女子らしく甘いものなんぞつつきながら――少し、思い出話なんぞしてみようかね。
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