資材の不足を補うには
「そこだ、かかれ!」
アルバートの指揮により、歩兵が魔物の群れに攻撃を仕掛ける。
ガルニアの北東の平野で、500ほどのゴブリンの群れと戦っている。最初は勢いを食い止めようと戦っていたゴブリンの群れだけど、横合いからアリエル率いる弓兵と魔法兵が支援攻撃を仕掛けたあたりから旗色が悪くなった。
群れの前の方は足が止まり、逃げ出そうと踵を返す者もいる中、後ろからはボスの突撃命令に逆らえず、混乱を始める。
ゴブリンたちの動きが止まると、アルバートは後退命令を出した。ここで突撃を仕掛ければ敵に大打撃を与えることができるよな? とか思っていると……。
「天より降り注ぐ小さき星よ!」
アリエルが唱えた魔法、エーテルが時空を斬り裂き、遙か天空の流れ星を召喚する。
ゴブリンたちが一番密集しているあたりに落下した巨大な岩は爆発四散して周囲を巻き込んだ。
「堅牢なる力よ! フォートレス!」
当然爆風の余波が来るが、あらかじめ打ち合わせでもしていたんだろう、アルバートがきっちり前に出て味方を保護している。
爆風が収まった後は死屍累々というありさまだった。そこにアルバートが先頭に立って突っ込んで行く。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
彼の雄たけびに勇気づけられた兵たちは勇躍して敵を切り伏せる。
そしてついにゴブリンの陣列を突破して、ボスへと向き合った。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
巨大なオーガが棍棒代わりの丸太を振り回す。兵たちは周囲のゴブリンを倒すために散開し、オーガにはアルバートが向き合う。
かなり体内のエーテルを消費しており、体のあちこちに岩の破片が突き刺さって血を流していた。
アルバートの大剣の間合いを見て、その外側から攻撃をしようと丸太をぶんぶんと振り回す。
自分の前を通過していく丸太をぎりぎりで見切って、大剣の柄で丸太の先端を叩くとオーガの身体が泳ぐ。
右手で大剣を肩に担ぐように構え、左手が翻ると投げつけられた短剣がオーガの目を貫いた。
激痛に動きが止まるオーガ。その隙を見逃さず、自らの間合いに踏み込むアルバート。
大剣に左手が添えられ、目にも止まらない速さで振りぬかれたら、丸太をつかんでいたオーガの右腕が切り落とされる。再び絶叫するオーガは連続して与えられた痛打に棒立ちになっていた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アルバートの裂帛の気合で突き出された切っ先はオーガの胸を貫き、その命を奪った。
断末魔と共にエーテルが霧散し、オーガの身体は崩壊する。
そして、ひとかけらのクリスタルのような結晶が残った。
オーガが倒されたことでゴブリンたちが本格的に逃げ出す。放っておいたら畑や家畜に被害が出る。
エルフの弓兵は容赦なく矢を浴びせ、背を向けて逃げるゴブリンに容赦なく白刃が振り下ろされる。
そして、しばらくしてほぼすべてのゴブリンが「駆除」された。
『お疲れ様ですマスター』
「うん。ありがと」
『非常用の救援魔法を解除しますねー』
「そうだね。よろしく」
これまでの戦いは、使い魔の目を通して見ていた光景だ。甘いと言われようとも、僕の領民で戦死者は出てほしくない。そう思って出撃していくアルバート達をこうやって見守っていた。
『戦闘詳報です。オーガが率いるゴブリンの群れを攻撃。オーガはアルバートさんが討ち取りました。アリエルさんが流星の魔法でゴブリン部隊の中核を撃破。味方は歩兵200の内、負傷15名戦死0です』
「了解。負傷兵には傷病休暇をあげて。戦闘参加者には報奨も」
『承知しました。いつも通り処理を行います』
アルバートが持ち帰ったマテリアルのクリスタルは、レギンが加工を始めている。
「ふむ……」
クリスタルを台座に据え、目を細めてじっと睨んだのち、ハンマーを一振り振り下ろした。
キーンと澄んだ音がした後、クリスタルはいくつかの属性マテリアルに分解されている。
『とんでもないですね。一振りでクリスタルの結晶構造を見切って分解するとか』
古の名工に匹敵する腕前らしい。
これによってマテリアルの変換効率が大きく上がり、またレギンたちの創り出す道具で、作業の効率が大きく上がった。
『最優先で工房を作って正解でしたね』
「うん、思い切りマナをつぎ込んだけど、その分の効果はあったね」
「殿! アルバート、ただいま帰還いたしました!」
「ああ、おかえりなさい、ケガはないかい?」
「はっはっは、オーガは手ごわい相手ではありますが、殿の名代として兵を預かっておりますからな。あの程度の相手には負けてたまりますか!」
呵々と笑うアルバートに僕のそばについていてくれる兵たちも笑顔を浮かべる。どんな強敵も笑みを浮かべて立ち向かうアルバートは、兵たちの心の支えとなっていた。
「おう、アルバートよ。相変わらず見事な腕前じゃな!」
工房から出てきたレギンが両手にジョッキを持っていた。
「おう、レギン殿。新しい大剣は良い感じだったぞ!」
「当り前じゃ! 誰が鍛えたと思っとる!」
そうこう言いながら、レギンの手からジョッキがアルバートの手に渡る。
おたがいガハハと笑いながらジョッキをぶつけ合い、中身を一気に飲み干す。
「「っぷはー―――!!」」
ほんのりとした果実と酒精の匂いが漂う。ぐびりと喉を鳴らす兵もいた。
そして……。
「昼間っから何を飲んでるんですかねえ?」
アリエルが笑顔でアルバートとレギンの耳をつまんでいた。
「「いてててててててててて!?」」
アルバートとレギンはアリエルに耳をつままれたまま執務室から出ていく。
そんな状態でも目礼をしっかり行うアリエルはさすがだった。
『今日も平和ですね、マスター』
「そうだね。こんな日が続くといいねえ」
レギンが作り出す道具や武器で、つい先日までの悩みの種は解消されていた。平和な街並みを見て、僕はほっと一息つくのだった。
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